ある冬の日の後悔 | ナノ
どうか幸せに



ガサガサとコンビニ袋の音がして、さっき肉まんを買ったことを思い出した。少し冷えてるけどまだ温かい。名前になんて言葉を返せばいいかわからなくて、とっさに肉まんを差し出した。


「……食べる?」

「……祐希は食べないの?」

「あんまりお腹空いてないから」

「じゃあなんで買ったのよー」


ふふっと名前は笑った。今度はさっきのとは違う、昔と変わらない…俺が好きだった笑顔で。

名前がおいしそうに肉まんを頬張るのを見て、高校生の頃に放課後コンビニに寄り道して、お互いが買ったものを交換して食べていたことを思い出した。

肉まんを咀嚼する名前の姿が、高校生の頃の名前に重なった。


「ごめん。俺やっぱり今も名前が好き」


名前は足を止め、肉まんをぼとりと地面に落とした。


「ちょっと何落としてんの…」


名前が動こうとしないから代わりにしゃがんで肉まんを拾う。袋に入れてたけど落ちた拍子に袋から出てしまったみたいで、砂がいっぱいついていた。これじゃ食べられそうにないな…。


「俺まだ一口も食べてないの…に……」

「……っ、…祐希の、ばかぁ…」


しゃがんだまま名前を見上げると、名前は両手で口元と目元を覆いながら、泣いていた。


「名前……?」


砂がついたままの肉まんを適当にコンビニ袋に押し込んで立ち上がる。なんて声をかければいいかわからない。名前がこんなふうに声を押し殺して泣いているのを見るのは初めてだった。

名前は頬を伝う涙を手でさっと雑に拭くと、泣かないようにするためか怒っているのかはわからないけど、眉間に力を入れた顔をあげた。


「どうして言うのよ…言わないでって言ったのに」

「名前だって言ったじゃん」

「あれは昔のことだって言ったでしょ。それに忘れてって言ったのになんで覚えてるのよ」


無理だよ名前。あんな顔で、あんな声で言われたら。

好きな人に好きだったなんて言われて、忘れられるわけがないよ。


「…ごめん名前」

「告白したのに謝らないでよ…」

「…うん。でもごめん」

「だから…!」

「もう結婚するのに、今さらこんなこと言って…本当に身勝手だと思ってる。でも、伝えたかった」


名前は目を丸くした。名前は昔からすぐ顔に出るから、ただただ驚いているんだと思う。


「前名前に言われたとおり、好きだって言って、自分がスッキリしたいって気持ちが全くないとは正直言い切れない」


名前は口をきゅっと閉じたまま、黙って俺の目を見つめている。俺の言葉を一言一句聞き逃さないよう、ちゃんと聞いてくれている。


「名前からすれば迷惑だと思う。でも、伝えておきたかった。知ってて欲しかった。

…俺なんかのことは忘れて、幸せになって」


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