ある冬の日の後悔 | ナノ
忘れてほしい昔の話



先に会計し終えて外で待っていると、名前が小走りで店から出てきた。


「おまたせ!」

「そんなに待ってないよ」


名前がマフラーを巻き直すのを少し待ってから俺たちは来た道をまた歩きだした。


「あのさ」

「んー?」

「朝ごはん…旦那さんの分はいいの?」

「あー…、うん。大丈夫」

「……そっか」


聞いちゃまずかったかな。名前の表情が曇ってしまった気がする。あぁ、余計なこと言わなきゃよかった。何か別の話題…


「…あ、高2の文化祭の時、お化けの要の格好すごかったよね」

「女装でしょ!?髪の毛ロン毛にして口から血垂らしたりして」

「それで春が要くんだーって叫んでびっくりしてたよね」

「確かにあれはおばけじゃなくて要にびっくりしちゃうよねー」


よかった。さっきまでの空気に戻って一安心だ。それにしても、高校生の思い出を名前と笑いながら話す日が来るなんて思ってもみなかった。高校生の頃に戻っているみたいで楽しい。口元が緩まないようにとにかく必死だ。


「そういえば祐希ってさ、パンのシール集めてたよね。さっきパン見て思い出した」

「名前ってそういう記憶力はいいよね。歴史の暗記とかは全然なのに」

「うるさいなー。余計なお世話!あと祐希が食堂のお姉さんにデレデレしてたのも覚えてるよー」

「それはしてないってば」

「してたよ。お姉さんのために柳くんとバスケの対決までしちゃってさ」


高2の頃、パンのシールを賭けてバスケ部員と一対一のバスケ対決をしたことがある。俺一人で行ったから、名前も含めて千鶴たちは誰も知らないはずだ。


「…見てたの?」

「うん」

「そう…なんだ」

「その日一緒に帰ってるのも見た」

「…なんで」


名前が急に立ち止まる。続いて俺も立ち止まると、名前は前を見つめたまま口を開いた。


「その頃から祐希のことが、好きだったから」


思いもしなかった名前の言葉に、口を開けたまま突っ立っていることしかできない。目を見開いたのが自分でもわかった。

そんな俺をほったらかしにして名前は歩き出した。我に返った俺は慌てて追いかける。


「でももう昔の話だよ」

「………」

「………お願いだから、忘れてね」


眉毛を吊り下げ、力なく名前は俺を見て笑った。その笑顔に胸が締め付けられる。

ねぇ、なんて声出してるの。
なんて顔で笑ってるの。


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