ある冬の日の後悔 | ナノ
一つだけのパン



人一人分くらいの距離を開けて名前と並んで歩く。名前の隣でこうして歩くのはずいぶん久しぶりで、なんだか変な感じがする。

………急に何も言葉が出てこなくなってしまった。どうしよう、何喋ろう。最近の要のお母さんネタなかったっけな…。


「…この前ね、部屋の掃除してたら高校の時のノートが出てきたんだ」

「え」


びっくりした。まさか名前から話をしてくれるなんて。思わず短く声が漏れてしまった。


「…祐希どうしたの?」

「いや、別に…。ノート捨ててなかったんだ」

「全部捨てたはずだったんだけどね。一冊だけ違うところにしまってあったみたいで」


ノートが出てきたってだけの話なのに名前はすごく楽しそうだ。それが不思議で、ついつい名前の顔を見つめてしまう。


「ん?なに?」

「いや、何か名前楽しそうだなって思って」

「だってそのノート、千鶴と祐希に書かれた落書きでいっぱいだったんだもん」


「塚原画伯の作品も残ってたよ」とくすくす笑いながら名前は話す。ああそういえば、名前のノートに落書きするのが俺と千鶴の間で流行ってる時期があったっけ。名前のノート、余白がいっぱいだからつい何か書きたくなってしまったんだっけ。

「その塚原画伯の絵、今ならプレミア付いて高く売れるかもよ」と冗談を言うと、名前は一層大きな声で笑った。そんな名前に俺も嬉しくなる。


「あとさ、みんなで悠太くんと高橋さんの放課後デート、尾行したの覚えてる?」

「あれを尾行って言える名前はちょっとどうかしてるよ」

「そこまで言わなくてもいいじゃん。まぁあれ多分高橋さんにもバレてたよね」

「多分じゃなくて絶対だよ」


いろいろ話しているうちに目的地のコンビニに到着した。扉を開けて中に入れば、店員のいらっしゃいませーという声と店内放送の音楽に迎えられる。

コンビニに入れば当時のように別行動で、お互い目当ての商品の場所に行く。俺は特に用事はなかったけど、とりあえず飲み物をとって名前の元へ向かった。


「名前何買うの?」

「明日の朝ごはん。んー、どれにしよう」

「アンパンでいいんじゃない?」

「うわー、ひどい。適当だね」

「そんなことはないけど」

「えー?そう?…よし、デニッシュパンにしよ!」

「アンパンは?」

「却下ですー」


名前がレジに並んだので俺も隣のレジに並んだ。おいしそうな肉まんが目に止まって、つい肉まんも買ってしまった。まぁいいや。飲み会ではあんまり食べなかったからお腹空いてるし。

……あれ、そういえば、名前はパン一つしか買ってなかったけど、彼氏…じゃなくて旦那の分はいいんだろうか。いつもはそんな細かいことは気にならないのに、なんだか無性に気になってしまった。


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