ある冬の日の後悔 | ナノ
二度目の偶然
同じ部署で働いている女の先輩の、大きな声が後ろから聞こえてきた。
「それじゃあ浅羽くんまた明日ー!」
「お先に失礼します…」
「浅羽くんも来ればいいのにー!」と言う先輩たちの声には聞こえないふりをしてその場を離れた。
今日は会社の飲み会だった。付き合いだから二次会までは行ったけど、そろそろ限界だったし先に帰らせてもらうことにした。
もうタバコやら香水やらで臭い最悪だよ。スーツにも臭いついてるよなぁ。とれるかな。とれないとすごく困る。
そんなことを考えながら、少し前にに千鶴と二人で飲んだ居酒屋の前を通り過ぎた。
そのとき千鶴に名前の話をされて、帰り道に偶然名前と会ったんだっけ。それ以来毎日ずっと名前のことを考えている。でももう、忘れた方がいいのかもしれない。
「……あ…」
この声は…まさか。
俯いていた顔を上げると、名前が立っていた。この前もここでこうやって会ったし、なんて偶然だろう。
千鶴たちと飲んだ時にあんな別れ方をしたからか、名前は気まずそうに俯いたままだ。
「こんな時間にどこ行くの?」
名前が喋りそうになかったので俺から話を振った。名前は一瞬俺をちらりと見たあと、また俯いてぼそっと呟いた。
「……コンビニ」
「ふーん…」
「…祐希は?」
「俺は今帰り。会社の人たちと飲み会だったんた」
俺の言葉に名前が目を丸くする。
「へぇ…仲良いんだね」
「別にそういうわけじゃ…。お付き合いっていうやつだよ」
そう言うと名前はいきなりぷっと吹き出した。びっくりしてただ名前を見ていることしかできない。俺変なこと言った?さっきまで素っ気なかったくせになにくすくす笑ってんの。
「あの…名前さん?」
「あ…ごめんごめん。祐希がお付き合いとか言うから」
「失礼な。俺だって社会人ですから」
「そうだよね。ごめんごめん」
ようやく名前は笑うのをやめた。さっきよりも俺たちの空気は随分柔らかくなった気がする。今日だけは臭いのキツイ飲み会にも感謝だ。
「危ないしコンビニついていくよ」
「いいよ。それくらい大丈夫だから」
「ここ人通り少ないし危ないって。俺も何か飲み物買いたいし」
「そう?じゃあ…そうしてもらおうかな」
「うん」
危ないと思ったのは本当だ。別に下心なんかはない…。そう自分に言い聞かせて、名前とコンビニへ向かうことにした。
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