ある冬の日の後悔 | ナノ
強くて優しい
「よし、そろそろ解散にしますか!」
千鶴の一言で解散になった。高校生の頃の千鶴なら、もっと歌おうよとかまだ帰りたくないとか絶対に言ってたのに、少しは大人になったみたいだ。
明日は休みだからって調子に乗って朝まで騒いで喉は痛いしカラカラだ。外の空気を吸おうと、俺は一足早く先に店を出た。
「あの、祐希くん…」
フラフラしながら春も続いて出てきた。
「うぅ、頭痛い…」
「大丈夫?ずいぶん飲んでたみたいだけど」
「はい…ちょっと途中から記憶がなくて…」
「えっ」
もしかして、俺に言ったこと全然覚えてない?
「あっ、でも祐希くんにマイクを使って大声で言ったことは覚えてますよ」
「あ、そう……。……今さらだけど、ごめんね春。あの時はいろいろ、気を遣ってくれてたのに」
「そんなことは気にしないでください。僕自身が二人があのままだと嫌だったから言ってたことですし」
冬真っ盛りで外はひどく冷える。春も俺も時折吹く強い風に体を震わせた。
「悠太たち遅いね。寒いし中戻ろっか」
「祐希くん」
「ん?」
「祐希くんが今でも名前ちゃんのことが好きでも、それを言えないのはわかってます。でも、せめて意地を張ってうやむやにしてしまったことだけは、謝るべきだと思います」
春はいつもとは違う強い目をしていた。普段は誰にでもやさしくてにこにこ笑っているけど、強い芯が一本通っている。春のそういうところを見習いたいと思う。
「……ありがとう春」
さっきまでの表情とは一変して、春はいつものようににっこりと笑った。
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