short | ナノ
人並みに変態
「ねー、名前」
「なに…」
「寝るの?」
「うん…」
「やだ。寝ないで」
「むり…」
「えー、何で」
「今朝言ったでしょ?徹夜したから寝てないって…もう限界なのー…」
今日は期末試験の最終日。つい30分前に最後の教科のテストが終わったばかりだ。徹夜で一睡もしてないから部屋で爆睡するつもりだったのに、祐希が部屋までついてきて寝させてもらえないでいる。
「テスト終わったから久しぶりにあそべるのに…。名前いっつもテスト期間はあそんでくれないから」
「テスト期間なんだから勉強しないと…それに明日にしてって何度言えばわかるのよー…」
もう無視だ無視。遊んでかまってと文句を言ってくる祐希を無視してベッドの上に転がった。あー、今なら5分以内に余裕で寝れる。
「名前ってば」
祐希もしつこいなー。私は悠太くんみたいに甘くないの。悪いけど今は自分を優先させてほしい。
「制服皺になっちゃうよ」
「………」
「パンツ見えてるよ」
私がそんなので起きるとでも?どうせ嘘でしょそんなの…
「……ピンク好きなんだ」
「え!?」
本格的に寝そうだったのにびっくりしてがばりと勢いよく 起き上がる。もしかしてほんとに見たの?今日のパンツはピンクだったような…!?
「名前どうしたの?部屋にピンクが多いから聞いただけだよ…そんなに食い付かなくても」
「あっ、なんだ、そっちか。びっくりした…」
祐希のやつ、ややこしいこと言ってくれちゃって。本気でビックリしたじゃない。
ふぅ、とため息をつく。一瞬眠いの忘れて飛び起きたけど、また眠気が襲ってきた。飛び起きたついでに服でも着替えよう。
スカートを履いたままズボンを履く。スカートを脱いで、上着も脱ごうとしたところで祐希からの視線を感じた。…こいつ、なに普通に見てきてんのよ。
「着替えるからちょっと出てって」
「後ろ向いてるからお気遣いなく」
「ちょっとはあんたが私に気を遣いなさいよ」
祐希がわざわざ私の着替えのために部屋から出ていくなんてことはしてくれないだろう。後ろを向いた祐希に背を向けて、シャツを脱いで部屋着に着替えた。
今度こそほんとに寝るぞ、と心の中で意気込み、再びベッドに寝転がった。
「えー、また寝るの?」
「“また”って…まだ寝れてないって」
「ねぇ名前「おやすみ」
それ以降、祐希は話しかけてこなかった 。いつもみたいに私の漫画でも読んでるんだろう。いつもはこんなにかまってほしがらないのに、今日はしつこかったな…。
* * *
ギシ、とベッドが軋む音がする。ベッドが揺れて、後ろに誰かの気配。…祐希かな。ぼんやりとした頭の中で考える。だけど眠気の方が強くて、まぁいっか、と考えるのをやめた。もう少し寝ようと体をよじったその直後。
「ひっ…!」
べろり、とうなじを舌で舐められた感覚がした。慌てて体を動かしたけど、背後からお腹に腕がまわされていて身動きがとれない。
「ちょ、っと祐希!あんた何やって…」
「だって名前が寝るから」
「だってじゃない!だからって何で舐めるの!」
「なに、もっとしてほしい?」
「っバカ!やめてって…ば!」
今度はうなじに吸い付いてきた。ちゅう、と音が聞こえて羞恥に顔が熱くなる。
「こ、のっ!!」
「………っ、痛い…」
祐希のお腹に肘鉄を食らわせてやった。拘束が緩んだ隙を見て慌てて起き上がる。祐希はあまりの痛さにお腹を抱えて丸まっていた。その姿に少しだけ罪悪感が生まれる。
「あの、祐希…大丈夫?」
「……名前って、ほんと手加減ないよね」
「ご、ごめん…。だけど祐希が悪いのよ!あんなことするから!」
「だって…」
「だってじゃない!あんたはほんとに“だって”ばっかり…」
祐希とベッドの上で向かい合わせに座る。祐希は俯いてしまった。なんで私が悪者みたいに…私が被害者なのに!
「まさか……だとは思わなかった」
「え?なに?」
「まさかほんとにピンクだとは思わなかった」
「………見たの!?」
「うん」
「即答…!さいってい!人が寝てるからってー!」
「寝てるときじゃないよ、名前が着替えてるとき」
「あんた後ろ向いてなかったのね!?」
うわー、信じられない!祐希もやっぱり男だってことね。学校の祐希ファンのみなさん、浅羽祐希も男です、人並みに変態ですよ!
「もー信じられない。祐希の変態!悠太くんに言いつけてやる!」
「悠太もきっと俺と同じようなもんだよ…」
「やめて!悠太くんは違う!あの優しい王子様みたいな悠太くんが祐希と同じなわけがない!」
「ひどっ……名前、いくらなんでもそれはひどいよ…」
今後、変態祐希の前では安易に寝ないと、心に固く誓いました。
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