その手をずっと | ナノ
小さくてかわいい子



「ねぇ名前!浅羽くんに好きなタイプ聞いてくれた?」


転校生くんと初めて話をした次の日、休み時間になった途端に香織が私の元に駆け寄ってきた。


「ごめん香織。忘れてた…」

「ちょっと!私以外にもみんな知りたがってるんだから絶対今日こそは聞いてよね!」


周りにいたクラスメートの女の子たちが口々に「名字さんお願い!」と口を開く。そんなに必死になるくらい知りたいなら自分で聞きなさいよ……。

…なんてことは言えなかった。どうせ「恥ずかしい!」とか言うに決まってる。私は浅羽くんとは普通に話せてるし、変に意識してないからその気持ちはわからない。でも、好きなタイプを知りたい気持ちはわかるのでしょうがなく協力してあげることにした。


「わかった、聞いとくよ」

「頼んだよ!」

「名字さんありがとう!」


女の子たちが嬉しそうに笑った。浅羽くんに恋してるかはわからないけど、恋してる女の子ってこんな感じだよね。そういう女の子の姿ってかわいらしいよね。…こんなこと思うなんて、同じ女だとは思えないな私…。

席を外していた浅羽くんが帰ってきて、話すチャンスがきた。昨日聞きそびれてしまった浅羽くんの好きなタイプを、今日こそはみんなに報告するべく後ろを振り返る。


「浅羽くん」

「おはようございます」

「あっ、おはようございます」


そういえば挨拶してなかった。ちゃんと挨拶してくれて、意外と礼儀正しいんだな。


「それで、なんですか」

「好きな女の子のタイプを教えてください」

「えっ、なになに!?名字さん、ゆっきーにフォーリンラブ!?」

「ちょっと黙っててくんない」


騒がしくする転校生くんを制し、数学のノートを1枚ちぎって待機。促すように浅羽くんを見れば、「あーあー女の子なのに雑だねぇ」とため息をつかれる。


「なんで名字さんに教えなきゃなんないの」

「私は別に知りたくないよ。頼まれちゃってさー」

「いくら頼まれたとはいえ、知りたくない人に教えたくないです」


……それはごもっともです。
だけど!お願いしますよ……一度引き受けた以上、引き下がれないんですよ…。


「ちなみに俺は、小さくてかわいい子が好き!」

「じゃあ名字さんダメだね。ドンマイ」

「別に全然気にしてませんけど。てか気にならないし!じゃなくて好きなタイプ!早く!」

「じゃあ、小さくてかわいい子」

「あっ、ゆっきー俺と一緒じゃん!やっぱ女の子は小さいのがかわいいよな!」


2人が私をちらりと見てくる。


「すいませんね中途半端に大きくて」


もう浅羽くんの好きなタイプは『小さくてかわいい子』でいいや。“じゃあ”って言ってたから、本心じゃないんだろうけど。

どうせ浅羽くんの好きなタイプが何であろうとそれが知れただけでみんな一喜一憂するし、それを聞いたどころで付き合える可能性が上がったり下がったりする訳じゃないんだから何でもいいよね。

…さっきまで恋する女の子かわいいって思ってたのに、私ってこういうとこが冷めてるんだよなぁ。

あ、ちぎったノート、無駄になっちゃったじゃん。あれくらいなら書かなくても覚えてられるしね。そんなことを考えていたらチャイムが鳴って、授業が始まった。


小さくてかわいい子、かぁ…。
クラスで小さい子が目に入る。やっぱり女の子は小さい方が好かれるよね…そっちの方がかわいいし。ちょっとだけ……ちょっとだけ、背の低い女の子を羨ましく思った。


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