その手をずっと | ナノ
ようやく、気付く



どうして?どうして戻ってきてくれたの?私のことを気にして、私のためだけに戻ってきてくれたの?

目の前に立っている祐希くんが腰を曲げて顔を覗き込んできた。びっくりして顔を背けると、小さくため息をついて私の前髪をかきあげた。


「痛さで汗びっしょりじゃん」

「…私代謝いいのよ」

「俺には冷や汗に見えるんですが」

「……私にとっては普通の汗なの」

「意地っ張り…素直に痛いって言えばいいのに」


祐希くんは再度ため息をつき、私に背中を向けてしゃがみ込んだ。


「え、なに…」

「おぶるよ」

「いっ、いいよ!ていうか絶対やだ!」

「遠慮しなくてもいいのに」


ほら、と祐希くん腕が背中をにまわす。祐希くんはおぶると言ってくれてるけど、その華奢な腕が私の重さに耐えられるとは思えない。


「そっ、そんなひょろひょろなのに私をおぶれるわけがないでしょ!」

「名字さんくらいなら大丈夫だと思うけど…」

「いや、問題はそれだけじゃなくてですね…!」


高校生にもなって、しかも他の生徒だけでなく一般の人にも見られてしまうかもしれない状況で、おんぶされるなんて絶対に嫌だ。それにおぶってもらうのは学校で女子に大人気の祐希くんだ。もし誰かに見られてたら、名字はマラソン大会がだるいから楽するために祐希くんにおぶらせた、なんて解釈されるかもしれないし、その上噂になんかなったりしたらもう学校には行けない…。

内心頭を抱える私をよそに、祐希くんは私に背中を向けたまま頭だけをこちらに向けて、自分におぶさるように促す。


「いいから早く」

「い、嫌!絶対に嫌!」

「無理すると悪化してもっと痛くなるよ」


そ、それは嫌だ。今は捻挫してない方の足に体重かけてるから平気だけど、歩いたりすれば結構痛む。悪化すれば更に痛くなって、痛みも長引くかもしれない。


「俺もずっとしゃがんでるから足痛くなってきたんだけど」


確かに今の祐希くんみたいにずっとしゃがんでいると膝が痛くなる。私はそれが人一倍酷くて、体育の時なんかは早く立ち上がりたくてたまらない。痛みの辛さはよくわかる。…そうだ、だったら立てばいいじゃない。そう思って言おうとしたけど、きっと今の祐希くんは聞く耳を持たないだろうからやめた。


「ねぇ名字さん早「わ、わかったわよ!」


観念して恐る恐る祐希くんの背中にくっつくと、祐希くんは私の両足を腕で抱えてからすっと立ち上がった。私は落ちないように慌てて肩にしがみつく。


「よいしょっと」

「ごめんなさい…重くて…ほんとごめんなさい…」

「いや、全然。それに思ったより重くないし…」

「うぅ…もうやだ…恥ずかしすぎて死ねる…」

「ちゃんとつかまってないと落ちるよ」

「きゃああぁあ!!」


祐希くんがわざと体を後ろに傾けたから慌てて首に巻き付いた。頭から地面に落ちてしまうことを想像してぞっとした。


「ちょっ、もう、やめてよね…」

「はーい、じゃあ次は走りまーす」

「っやぁああぁあ!!!」


私をおぶったまま走り出した。走るから当然体は上下に揺れて、振り落とさないようにまた必死にしがみついた。


「ストップストップストップ!!!」

「えー?」


不服そうだけど渋々従ってくれて、普通の速度で歩き出した。


「人おぶっておいてよく走れるわね…」

「ひょろひょろじゃありませんからね」

「もしかして根に持ってる?」

「ぜーんぜん。これっぽっちも思ってないよ」


絶対嘘だ。ちょっと拗ねてるし。


「まぁ、大声で暴れてたし元気はあるみたいだね」

「うるさいわね…。あっ」


前から犬の散歩をしているおじさんが歩いてきたから、恥ずかしくて祐希くんの肩に顔を埋めて隠れた。祐希くんの体温があたたかい。

祐希くんはよく、私が弱っているときに優しく手をさしのべてくれる。お化け屋敷で怖がっていたときは手を繋いでいてくれたし、先輩に自販機の側でいじめられていたときはさりげなく助けてくれたし理由も聞かないでいてくれた。それに祐希くんに無視されて泣いてしまったときだって、涙を拭いて抱き締めてくれた。元彼を恐がっていた私に気付いて彼から遠ざけてくれたし、私が知らないところで別れるように話もつけてくれた。元彼に殴られたのに泣けなかった私も、祐希くんの前でなら我慢せずに泣くことができた。今だって、痛いのを我慢していた私に気付いて戻ってきてくれて、おんぶまでしてくれている。自分だってまだ走らなきゃいけないし、疲れているはずなのに。


「ねぇ、」


ねぇ、どうしてそんなに優しいの?


「ん?」

「………ごめん。……ありがと」

「……うん」


目の前の祐希くんは全然ひょろひょろなんかじゃなくて、優しくて頼りになる。すぐ横でサラサラとなびく髪に触ろうと手を伸ばしたけどやめた。私の手の影にきっと祐希くんは気付いていたけど、何も言わなかった。手を引っ込めたところで急に愛しさが込み上げてきた。…あぁ、私、

祐希くんのことが、好きなんだ。


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