その手をずっと | ナノ
騒がしい転校生くん



朝のHRで、転校生の紹介があった。ぼーっとしてたから名前は聞きそびれちゃったけど、金髪で、碧眼で、背の低い男の子だった。

その子の席は私の後ろで浅羽くんの右隣。入学式の日に、浅羽くんと作業するために私が座った席だ。

授業が始まってすぐ、その子は浅羽くんに飛びついて何やらぎゃーぎゃー騒いでいた。それくらいから私はうとうとしてたので会話の内容まではわからない。

その子が時々喋るせいで、授業中に何度も私の安眠が妨げられる。昨日寝るの遅かったから寝不足なの。ちょっと静かにしてくれないかなほんと。


「ねーねーほんとに覚えてない!?公園で、2人であそんだじゃん!!」

「授業中なんで静かにしてくれませんか。覚えてないって言ったでしょ」

「絶対君だと思うんだよな!だって俺びびっときたもん!!」


「………あの、」


我慢ならず、うしろに振り向く。眠いからか、結構低い声が出てしまった。


「はっ、はい!なにか…」

「ちょっとうるさいんで、静かにしてもらえませんか」

「ほらみなよ。周りの人に迷惑かけちゃダメでしょ、転校生。名字さん顔めっちゃ怒ってるじゃん」

「ごっ、ごめんなさい!先生の声聞こえなかったですよね…!」

「いや、そっちはいーの。聞いてないから。うるさくて寝られないから困ってん「名字さん」

「あ、はい」


前を見ると、さっきまで黒板に文字を書いていた先生が目の前にいた。はやっ。瞬間移動ですか…?

そこからの先生の説教はあまり覚えていない。適当に流して聞いて、先生の気がすんだら前を向いて教科書とノートを開いた。シャーペンを持って、字を書くふりをして眠りについた。これ、結構寝てるのバレないって自信がある。先生からすればお見通しなんだろうけど気にしない。


「名前!」

「あ、おはよー」


授業はいつの間にか終わったみたいだ。香織に話しかけられて目を覚ました。


「さっき怒られてたねー。ばっちり見てたよ」

「えー、やめてよ。そう言われると恥ずかしいじゃん」

「そういえばさ、あの子祐希くんの友達なのかな?」

「転校生?あー…みたいだね。公園で遊んだとかなんとか言ってたような…」

「そうなんだー!祐希くんのこといろいろ知らないかな!?好きなタイプの女の子とか…!」

「え、あんた、浅羽くんに気があるの」

「そういうわけじゃないけどー…祐希くんかっこいいし、彼女になれたらなーって夢見る女の子は多いと思うよ」


うちのクラスの浅羽くんは、イケメンで、背が高くて、モテる(らしい)。他学年の女の子が彼を一目見ようとわざわざ他の校舎からやって来るくらいだ。同じクラスになってから何度浅羽くんの所在を聞かれたことか…


「名前いま席近いじゃん?だからさ、祐希くんの好きなタイプ聞いといてよ!」

「えー、やだー」

「お願い!同じ部活の先輩に頼まれてんの!あの人ちょっとこわいから断りきれなくて…」

「そう言われても嫌なもんは」


――キーンコーンカーンコーン…


「それじゃ、よろしく!」


なんてタイミングが悪いの。結局この休み時間、8割浅羽くんの話しかしてないんだけど。チャイムが鳴ったから香織は自分の席へと戻っていった。

そんなに仲良くないのに好きなタイプなんか聞けないっての。でもこうなったら香織は私が聞くまでうるさいだろうなぁ…。

ため息を付いていると、浅羽くんが教室に入ってきた。その少し後に転校生くんも続いて入ってきた。


「ゆっきー待ってよ!無視しないでよー!」


………ゆっきー?

ゆっきーって…もしかしなくても浅羽くんのこと?え、ちょっと待って。はっきり言ってキャラじゃないよね……でもなんか似合う。あ、やばい、笑いそう。


「ゆっきぃぃぃ!」


浅羽くんは無視することに決めたみたいだった。転校生くんが話しかけても、たとえそれがうるさくても、浅羽くんの視線は窓の外に向けられている。

そこでようやく転校生くんが静かになった。環境は整えられたし、まだ寝足りなかった私は、数学も睡眠学習をすることに決めた。





* * *


次に目が覚めると、数学の授業が終わっていた。授業中一回も起きずに丸々寝ていたなんてことは初めてで、すごいような損をしているような。複雑な気持ちだ。


「ねーねー!」

「………はい、なんでしょう」


後ろから背中をつんつんと突っつかれたので振り向く。転校生くんだ。…うわあ近くで見るとほんと日本人離れしてる。目ぇ碧っ。金髪まぶしー。…でも背は低いのね。ハーフなのに。ほら、ハーフの人ってだいたい背高いし。


「えーと、名字さんだっけ?君よく寝るねー!さっきの時間だって全然プリントまわしてくんないしさー」

「えっ」


慌てて机の上を見てみたけど、プリントを溜めてるようではなかった。


「あ、プリントは名字さんの前の子からもらったから大丈夫!名字さんの分は机の上に置けなかったから中に入れといたし」

「で、その時名字さんの触っちゃったんだよね」


「ほら、机に突っ伏して寝てる体勢だと机塞いじゃうし」と浅羽くんは付け足した。


「やっ、ちっ、違うよ!?ほんとに触ってないからね!?ゆっきー変なこと言わないの!」

「なーに焦ってんの。あやしー」


顔を赤くして転校生くんは必死に否定している。実際それがどうであれ、プリントを受けとるのにいちいち立ってもらってたのは申し訳ないな。


「ごめんね、迷惑かけて」

「いやいやー、これくらいたいしたことないっすよー!それに名字さんかわいいし、むしろラッキー、みたいな」

「あ、やっぱり触ったんだ。転校早々やってくれますね」

「だから違うっつの!!」


ぴょこん、と転校生くんの前髪…?が揺れる。あ、よく見るとピアスもしてるやこの人。

…あ。浅羽くんに好きなタイプ聞くの忘れてた。


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