その手をずっと | ナノ
君が笑うと
昼休みになった。私に気を利かせた千鶴は、祐希くんに今日は私と二人で食べるから屋上へは行かないと言ってくれた。ほんとに今日は千鶴様に感謝だ。
「千鶴さま!神!」
「やっと俺っちの髪の良さに気がついたー?」
「そっちの髪じゃないよ。GODの方だよ」
やっぱり持つべきものは友達だ。あいつみたいな、人の友達関係引っ掻き回すような恋人なんかいらない。
「ねぇ千鶴、なんで祐希くん、私と喋ってくれないんだと思う?」
私のことうっとうしいからって祐希くんは言ってたけど、本当はそうじゃないと信じたい。でも、橋本くんのことは気にせずに私と仲良くして欲しいといったのに、祐希くんは首を縦には振ってくれなかった。
祐希くんが何を考えているかわからない。言ってくれなきゃわかんないよ、私。
こんなに友達関係で悩む日がくるとは思わなかった。しかも女じゃなくて男だし。それに原因つくったのも男だ。
くっそー、男なんてばかやろーだ。あ、千鶴は違うよ。千鶴は私のよき理解者です。いつもは一緒にバカやってるけど、頼りになるときもあるんだね。見直したよ。
「きっと、ゆっきーなりにいろいろ考えがあるんじゃないかな」
「いろいろって?」
「いろいろはいろいろだよ。男にもいろいろあんの!」
いろいろいろいろ言い過ぎだよ。ややこしい。女の私にはわからないけど、男も男でいろいろと面倒なのね。
「でもさ、なっちゃんの気持ちはどうなの?」
「私の…?」
「理由はわからないけど急にゆっきーが自分と関わりたくないって言ってきて、そのまま引き下がるの?」
「………」
「そんなのなっちゃんらしくないと思うなー」
……そうだよ、千鶴のいうとおりだ。祐希くんが嫌だとしても、私は…。
とりあえず今日のお礼として、卵焼きを2つ千鶴のお弁当の中に入れた。
* * *
千鶴と名字さんがいない昼休みは静かだった。そういえば、千鶴が転校してきて名字さんが俺たちに加わるまでは、4人が当たり前だったよなぁ。
そんなことをぼーっと考えているうちに授業は終わり、放課後になった。昼休み以降も午前中と変わらず、俺は名字さんとは話していない。千鶴も俺達のことに気付いているみたいで、三人一緒に話そうとはしていなかった。
なんと今日俺は日直だったみたいで、授業のおわりに全員分のノートを集めて職員室に持ってくるよう先生に頼まれてしまった。クラスの人数分−2冊を抱えて廊下を歩く。ちなみに−2冊分は俺と千鶴の分だ。あとで千鶴と一緒に要に見せてもらおう。
あー、重い。要あたりに手伝ってもらえばよかった。千鶴だってひまそうにしてたし。こういうとき、名字さんなら気を利かせて手伝ってくれるんだろうな。あの人、なんだかんだで優しいから。
でもそんなことはもうないだろう。俺が名字さんを突き放してしまったんだから。本心でないとはいえ、本当にひどいことを言ってしまった。
いくらなんでも、本気で嫌われたと思う。少し後悔してるけど、自分でやったことだ。もう引き返すことはできない。
突然、腕がすっと軽くなった。前を見ると、目の前には今まで頭の中を占めていた名字さんが、俺が抱えていたノートを半分持って立っている。
「半分持つよ。いくらなんでも重いでしょ?」
「大丈夫だから、戻してください」
ノートを積み上げた腕を少し下げて、名字さんが乗せやすいようにした。それでも従ってはくれない。
「やっぱり私、今さら祐希くんとの関わりを絶つなんてできないよ」
「………」
「今までのことをなかったことにはできない。祐希くんは迷惑かもしれないけど、私は嫌なの」
全然、迷惑なんかじゃないよ。
「私はこれからも、あなたと関わっていきたい。」
凛とした名字さんの真剣な顔を見て、ああ綺麗だなと素直にそう思った。
あいつの言うことに素直に従ったのは、あいつが名字さんの好きな人だからだ。俺が名字さんと関わることで、あいつとの仲が悪くなるのが嫌だった。だって、そうするときっと名字さんは悲しむから。
でもあいつに言われたことはもう守れそうにない。俺のわがままだけど、俺だって名字さんと関わりたいと思う。
「…じゃあ、一緒に職員室まで…お願いします」
そう言うと、名字さんは笑った。
彼女が笑うと、俺はうれしい。
[ 62/68 ][*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]