その手をずっと | ナノ
二度目の拒否



とぼとぼと一人で通学路を歩く。昨日祐希くんに抱き締められて、そしてもう関わらないでと言われたことが未だに信じられない。…それに信じたくもない。

今日の学校も本当に行きたくなかった。クラスが違ったり、せめて席が離れてればいいんだけど、あいにく私と祐希くんの席は斜め同士。近くには千鶴がいるし、この雰囲気だと何かあったって絶対にバレる。

いっそ千鶴に先に言っておけばよかったのかなぁ。あれ、でもどこから話せばいい?私が泣いたとこ?祐希くんが私の涙を拭ってくれたとこ?いやいや私もまだ理解できてないことを千鶴に話しても理解できるはずが…


「なっちゃんおはよー!」

「ぐぇ、」


誰かにタックルされた。相手を見なくてもわかる。私をなっちゃんと呼ぶのはこいつだけ。千鶴だ。


「ちょっと千鶴、名字さんの口から変な声が漏れてるから、止めてあげなさい」


私のために千鶴を注意してくれたのは悠太くんだ。一瞬祐希くんかと思ってドキリとしてしまった。祐希くん本人はというと、いつものように悠太くんの隣にいた。いつもと違うのは、私に声をかけてくれないどころか、目も合わせてくれないところだ。


「名前ちゃん、おはようございます」

「おはよう春ちゃん。…ついでに要も」

「ついでとはなんだ!つーかお前、昨日のはもういいのかよ」

「…うん。もういーの」

「そっか」


要がおかしい。変だ。私に優しくて、私を気にかけてくれるなんて。


「あ、私友達に呼ばれてるんだった。先行くね」


とりあえず祐希くんから離れようと、とっさに考えた理由がこれだ。関わらないでほしいって言われたんだから、近くにいちゃマズいし。後ろから千鶴の声が聞こえたけど、聞こえないふりをして足早にその場を離れる。

ふと一人になって、寂しさが込み上げてきた。でもここでめそめそ落ち込んでたら、ただのうざい面倒な女だ。

これ以上嫌われたくないから、無理にでも明るい自分を演じるようにしないと。



* * *


教室に着くと、みんなに挨拶をして席に着いた。もうすぐ祐希くんが教室に着くはず。他の子のところに逃げるのもなんだか面倒で、自分の机で狸寝入りをすることにした。


「もー、なっちゃん何で先に行っちゃうんだよー」


千鶴だ。千鶴には申し訳ないけど、無視だ無視。

……やっぱり申し訳ないだなんて、前言撤回。なぜなら千鶴は私の体を揺すって無理にでも起こそうとしてきたからだ。こんなことされたら起きるしかないじゃない。ていうか痛い痛い!


「……もー、なに」

「なっちゃんはさ、ゆっきーと何かあったの?」


千鶴にしては珍しく小声で喋っている。祐希くんは自分の席に座っていたけど、聞こえてはいないみたいだ。

千鶴の腕を引き、廊下へと連れ出した。


「…どうしてそう思ったの?」

「さっきあのあと、なっちゃんの話になったんだよ。なっちゃんの話の時はゆっきー絶対に何か喋るのに、黙ったまんまでさ。しかもずっとしかめっ面だったし」


千鶴は意外と周りのことをよく見ているようで驚いた。千鶴になら、話しても大丈夫かもしれない。


「…実は昨日、祐希くんにもう関わらないでほしいって言われたの」

「え!?」

「あ、このこと誰にも言わないでね」

「どうして?」

「…何でも他人にペラペラ喋るような女だって思われたくないから」


千鶴がハテナを浮かべて首をかしげる。


「前に祐希くんがね、名字さんはさっぱりしてるから好きだって言ってくれたの。私だって嫉妬したりするから全然そんなことないのに嬉しくて。…だから、祐希くんが嫌うような女にはなりたくないの」


あ、もう嫌われちゃったか。そう言うと千鶴が心配そうに見つめてくるから、むりやり笑顔をつくってみせた。そんな私の顔を見たあと千鶴は俯いて、わなわなと震え出した。


「もう我慢できない!」

「え?」


ばーん!と千鶴の我慢が爆発したみたいだった。ゆっきーごめん!と言って手を合わせている。


「ゆっきーに口止めされてたんだけど、言う!だって、結局昨日は教えてもらえなかったんでしょ?」

「うん…」

「このままゆっきーとなっちゃんが他人みたいになったら俺が嫌だ!だから、ゆっきーとの約束はやぶらせてもらう!」


それから千鶴は、昨日の昼休みの出来事を話してくれた。すべての元凶は、あいつだったんだ。

チャイムが鳴って授業が始まったので、おとなしく席に座ってこれからのことを考えた。とりあえず放課後話をつけるとして、祐希くんのことはどうしよう。

千鶴は私たちがこのままだと嫌だと言ってくれた。もちろん私も嫌だ。橋本くんに無理矢理約束させられたんだから、きっと祐希くんも同じ気持ちだと思う。よし、この授業がおわったら、がんばって話してみよう。

昨日のように冷たくされたら、と考えたりもしたけど、今は千鶴が着いている。こわいことなんかない気がした。



* * *


休み時間になって、祐希くんの前に立ちふさがった。千鶴は気を利かせて席を外してくれたみたいで近くにはいなかった。

祐希くん、と話しかけたけど、やっぱり無視されてしまった。昨日で耐性ついたと思ったけど、正直無視されるのはつらいよ。


「昨日の昼休みのこと、聞いたよ」

「………」

「橋本くんのことはどうにかするから、私といつもみたいに喋ったりしてくれないかな…?」

「悪いんだけど、それはやっぱりできない」


表情1つ変えず、祐希くんはきっぱりと言い放った。

どうして?やっぱり、本気で私のことが嫌いなの?

突然、目の前が真っ暗になって、目の前の祐希くんがすごく遠くなった気がした。



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