その手をずっと | ナノ
授業中に仲直り


5時間目がおわってすぐ、要の席に直行した。私の勢いにびっくりしたのか、びくりと体が跳ねた要に思わず吹き出しそうになる。


「お前なに笑ってんだよ!!」

「いたっ!叩かないでよ!」


我慢してたつもりだけど、ニヤけてしまっていたみたいです。


「…で、昼休みに何があったの?」

「てかお前こそ昼休みに何があったんだよ」

「何がって?」

「小ザルと揉めてたじゃねぇか」

「…あれは千鶴が悪いよ。私に嘘つくし、隠し事してるし」


ふーん、と要は興味なさげにそっぽを向いた。あ、今すごくイラッときた。千鶴に怒ってるから今怒りの沸点が低いのかも。


「お前の彼氏が来たとき、俺はここにいたから詳しいことは聞こえなかったよ」

「じゃあ2人から聞いてない?」

「祐希は一人で食べるっつってたし、小ザルは何でもないって言い張ってたからそれ以上は聞いてねーよ」

「何やってんだ、もっと深く掘り下げろよ!聞き出せよ!…メガネのくせに情報量少ないなー」

「メガネ関係ねーよ!つーか何で俺が。だいたい、しつこくされると嫌われるぞ」

「余計なお世話!」


要じゃ話にならん。イライラしたから教室を出ることにした。一旦教室を出たけど要への怒りが収まらなくて、廊下から頭だけを出して「要のアホ!メガネ!バカ!」と叫んで逃げた。我ながら子供っぽいとは思う。教室から要の怒鳴り声が聞こえてきたけど、知らんぷりだ。

次の授業サボっちゃおうかなー。あ、でもあと1時間で放課後か。じゃあしばらくぶらぶらしたらおとなしく教室に戻ろう。そんなことを考えながら廊下を歩いていると、春ちゃんを見つけた。


「春ちゃーん!!」

「あ、名前ちゃん」

「春ちゃん聞いてよ!祐希くんは無視するし千鶴は嘘つくし要はなんかムカつく!」

「名前ちゃん落ち着いて…!」


春ちゃんになだめられて落ち着いた私はそれから少しの間、ついさっきのできごとである要のことを重点的に愚痴を聞いてもらった。要のは愚痴っていうかただの悪口になっていたかもしれないのに、春ちゃんは笑って聞いてくれた。

悠太くんは教室にいて、廊下から目が合ったけど悠太くんには言わないことにした。祐希くんに伝わったら面倒なことになるかもしれないし。

春ちゃんに話し終えてすっきりした気持ちで教室に戻ると、千鶴が私を見ているのがわかった。わかっていて気付いてないふりをして席に着く。私は怒ってるんだ。これくらいしないと千鶴はわかんない。


6時間目の担当の先生が入ってきて、授業が始まった。これがおわったら1人でさっさと帰ろう。あ、でも気分転換に買い物して帰るのもいいな。1人だと自由に見てられるし。

放課後に思いを馳せていると、背中を指でつんつんとつつかれた。…千鶴だ。放っといて、という意味を込めて、少し前に動いたけど、すぐイスにコツン、と何かがぶつかる音と同時に振動がした。たぶん、千鶴も机ごと前に動いてぶつかってきたんだろう。

びっくりして、思わず肩が跳ねる。いつもならこんなとき、祐希くんが笑うなりバカにするなりするんだけど、やっぱりそんなことはなかった。

祐希くんが気になって、ちらりと後ろを振り返ってみる。


「……っ!」


うわっ、目が合った…!なんで祐希くん私のこと見てたの!?

祐希くんとばっちり目が合って、さっきよりもっとびっくりした。すぐに祐希くんの方から目をそらされたけど、私の顔はどかっと一気に熱を帯びた。いつもなら、目が合ったぐらいじゃこんなにはならないのに。喧嘩っぽくなってるから、かな。うん、きっとそうだ。

一方千鶴は、相変わらず無視し続ける私を諦めたのか愛想をつかせたのかわからないけど、くっついた机を後ろに動かす音が聞こえた。

やっとやめたか、と思って私は板書を始めた。ちょっとは真面目にしようと思う。そしたら、後ろからビリビリと紙を破る音が聞こえてきた。うるさい。絶対にこれは千鶴だ。

しばらくすると、隣の席の女の子から雑に折り畳まれた紙がまわっきた。ん?この子から手紙?にしてもこの子がこんなに雑だとは驚きだ。

何だろうと思い紙を広げると、そこには汚い字で『ごめん。』と書いてあった。よく見ると何度かいろんなことを書いたのか、消しゴムで消しきれていない字がうっすらと見えている。この字は千鶴だ。千鶴が他の子に頼んで手紙を渡してきたんだろう。

『他の子巻き込まないの。千鶴とちがって勉強してるんだから迷惑でしょ』そう書いて千鶴に直接渡した。

今度は千鶴も直接私に紙を投げてきた。でも前に祐希くんと3人でやったときみたいに上手に私の机の上には乗らず、私の足元に落ちてしまった。ごめん!と小声で謝られる。


『あとで謝っとくよ。なっちゃんも昼休みはごめんね。でも、ゆっきーに口止めされてるから言えない。』


ということは、祐希くんに聞かなきゃいけないのか。無視されるのは辛いけど、さっきまで私も千鶴に同じことをしてたから、そんなことは言ってられない。


『私も意地になっちゃってごめん。あと無視してごめん。放課後、祐希くんにもう一度聞いてみるよ。

昼休みに言っちゃったこと、訂正。私は千鶴のこと、信頼してるからね』


なんかすごく恥ずかしいけど、そう書いて紙を後ろにまわした。それっきりもう紙はまわってこなかった。きっと千鶴は満足したんだろう。

しばらくするとチャイムが鳴って、やっと6時間目が終わった。



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