その手をずっと | ナノ
千鶴と私の意地



橋本くんとお昼を食べ終わり、もうすぐ昼休みが終わるから教室に戻ると、クラスのみんなの視線が突き刺すように私に向けられた。なに、私何かした?

すると香織を筆頭に、数人の女の子が集まってきた。


「名前!あんた1組の橋本くんと付き合ってんの!?」

「え、何で知って」

「さっき2人でお昼食べてたみたいだし、昨日一緒に帰ってるのを見た子もいるんだよ」

「わー、女子の情報網はすごいね」

「感心してる場合か。あとね、あんたの彼氏と祐希くんたち、揉めてたみたいだよ」

「え?」


なんで祐希くんが?祐希くんは橋本くんと面識はないだろうし、橋本くんも祐希くんのことは顔と名前を知ってる程度だろうし…。


「最初、橋本くんと橘くんが喋ってたんだけど、橘くんニコニコ笑ってるから、友達だったんだー程度にしか思ってなかったの。だけど、急に橋本くんが祐希くんの机思いっきり叩いて…」

「それで?」

「ごめん、内容までは聞こえなかった。本人に直接聞いてみて」


さっきうちのクラスの子に用があるって言ってたけど、祐希くんと千鶴のことだったんだ。とにかく2人に聞いてみよう。

香織にありがとうと告げて、祐希くんのところへ向かった。祐希くんは1人で席に座っている。いつも休み時間中みんなといるのに今ここにいるってことは、お昼は1人ですませたのかな。


「祐希くん」

「………」


前の席のイスに座って、祐希くんに話しかけた。携帯を弄る手を止めて、ちらりと私の方を見たけど、すぐに目線は携帯に戻された。


「橋本くんと、何かあった?」

「………」

「ねぇ、無視しないで何か喋ってよ」

「………」

「ゆーうーきーくーん」

「………」


試しに携帯の画面を手のひらで見えなくしてみる。だけどパシン、とすぐにはねのけられた。痛いよ。

次に携帯を取り上げてみた。むっとした顔をして、今度は窓の外を見る。私完っ全に無視されてるなぁ…。ていうかうざがられてる?


「なっちゃんじゃん。おかえりー」

「千鶴!聞いてよ、祐希くん私のこと無視するんだけど」

「ふ、ふーん?あ、でもゆっきー機嫌悪いみたいだから、俺が話しかけても無視するよ?」


だからしばらくは放っておいた方がいいんじゃないかなー。と言う千鶴の目はあちこちをキョロキョロと見ていて落ち着きがない。…嘘ついてる?


「千鶴、ちょっと来て」


ヘラヘラ笑う千鶴の腕を引っ張って、廊下へ連れ出した。


「何か隠してない?」

「別に何も隠してなんかないですよアネゴ〜」

「ふ・ざ・け・な・い・で」

「ごめんなさい」


ドスのきいた低い声を出すと、すぐに千鶴は謝った。ちょろいな…と思ったのは間違いだった。


「でもなんにもないから!」

「嘘つかないでよ」

「ほんとだって!」


千鶴の声がだんだん大きくなる。これは絶対に何かあった。そう私は確信した。


「…橋本くんと揉めてたって聞いたけど」

「そんなことないよ。普通に『名前の友達?』みたいな感じで話しかけられただけだし」

「でも祐希くんの机思いっきり叩いてたって」

「え?軽くだよ軽く!まぁ無視してたゆっきーが悪いんだし」

「嘘!香織に聞いたんだから!思いっきり叩いてたって!!」

「だから軽くって言ってんじゃん!!」


いつの間にか声が大きくなっていたみたいで、みんなが私たちを見ていた。クラスの子たちが心配そうな顔をしていたからご心配なく、と言ってひきつった笑顔を千鶴と2人で浮かべた。


「とにかく、別になんもなかったんだって」

「……千鶴に嘘つかれるなんて思ってもなかった」

「だから嘘じゃ、」

「ひどい。これでも信頼してたのに」


千鶴を睨むと、目頭が熱くなった。やばい、泣きそう。でもここで泣くとめんどくさい女になってしまう。それだけは避けたくて、ぐっと我慢した。


「なっちゃん、」

「千鶴のバカ。」


千鶴を置いて、教室の中に入った。こっちを見ていた祐希くんと目が合う。祐希くんは目を丸くして驚いているみたいだった。私が半泣きだから?

5時間目の授業の先生が入ってきたのでそのまま席に着いた。少しして、後ろの席に人の気配がした。千鶴が座ったみたいだ。誰も言葉を交わさない。3人がこんなに静かなのは初めてだった。



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