その手をずっと | ナノ
隣の彼のきれいな手
新学期2日目。朝教室に行くと、浅羽くんはもう自分の席に座っていた。浅羽くんの右隣の席(現在空席)に塚原くんが座って話をしている。ちなみに私の席はその空席の1つ前、つまり浅羽くんとは席が斜め同士なのだ。そのことを香織に言うと、かなりうらやましがられた。周りはともかく、後ろの席で気に入ってるから譲らないけどね。
「お、名字おはよう」
「塚原くんから挨拶してくるなんて…何か裏が…?」
「ねぇよ!!」
「普通に挨拶くらい返せねぇのか!」と塚原くんはご立腹だ。とりあえずご機嫌とりも兼ねて「ごめんごめん、おはよう」と返しておいた。
ふと視線を感じた方を見ると、浅羽くんが私を見ていた。誰だろうこの人。とでも言いたそうな顔だ。
これは浅羽くんにも挨拶した方がいいよね。でも全然仲良くないのに挨拶したらうざいかな。それに浅羽くんのことだから私のこと無視しそうだし。
…いや、彼のことはこれっぽっちも知らないんだけどね。決めつけちゃ悪いか。
「ほら祐希も、クラスメートなんだから挨拶くらいしとけ」
「昨日同じクラスになったばっかりなのに、もう他人じゃいられないんですか」
「学校はそういう人間関係も学ぶ場所なんだよ!」
「はいはいそうですか。…じゃあ、おはようございます」
「(じゃあ…?)おはよう、ございます…」
なんとか挨拶を交わして席についた。「こいつはこういうやつだから」とちゃんと私にフォローを入れて塚原くんは自分の席に戻っていった。案外彼はいいやつみたいです。
担任が教室に入ってきて、HRが始まった。今日は昼から入学式があるので関係のない人は午前中でおわりだ。
1限目は隣同士の2人組で何か作業をするらしい。私の左隣の子は今日は休みらしく空席だった。誰か余ってる子がいないかと周りを見渡したけど、いないみたい。どうしよう…と少し考えて思い出した。浅羽くんの隣も空席だったんじゃ…。そろりと振り返ると、浅羽くんとばっちり目が合った。
「一緒に…やりますか?」
「うん。お願いします」
恐る恐る提案すると浅羽くんは普通に返事をしてくれた。なんとなく嫌がられそうな気がしたから一安心。
私が後ろの空席に移動して、浅羽くんと机をくっつけた。うわ、ちょっと近いかも。
「で、何やればいいの?」
「あ…ごめん、聞いてなかった…」
「だめじゃん」
「………」
じゃあ、あなたは何をやればいいのか知ってるんですか…!
「…たぶん、このプリントを三つ折りにして封筒に入れるんだと思うよ」
隣の席の子たちがやってるし。…なんか、こういう作業って学校にいいように使われてる気がするなぁ。
「こういうのって、学校に使われてる気がするよね」
「うわ、それ今私も思ってた!」
「気が合いますね」
「ね」
なんだ、意外と普通に喋ってくれてる…。饒舌とは言えないけど、私が考えてたほど無口でもなかったみたい。人を自分だけのイメージで勝手に決めつけちゃダメだな。
それが少し嬉しくて、もっといろんなことを話したくなって思い切って話しかけてみた。
「新学期ってプリントとか教科書多くて嫌だけど、授業ないからいいよね」
「……普通はそう思うよね」
「え?」
「要がさ、HRとか暇だから授業受けてた方がマシだとか言ってたんで」
「えー…引くわー…」
「だよね」
2人で塚原くんにそういう視線を送っていると、何か感じ取ったのかこちらに振り返ってすごい形相で睨んできた。あーこわいこわい。
「あれ、次は赤リボンだ」
「こっちは白リボン」
前の席の子からリボンが手渡された。わざわざ渡しに来てくれたからありがとう、とお礼を言う。
「…これって、新入生が胸につけるやつみたいだね。数が足りないからって私らに作らせるのかぁ」
「入学式当日に数が足りないことに気付くなんてね…」
「配慮が足りませんね」
「そうですね」
教壇に立って喋る担任のリボンの作り方の説明をがんばって聞いてたけど、よくわからない部分が多かった。なんとなくだけど浅羽くんは理解してる気がしたので少し心強い。
「どうやって作るの?」
「え、聞いてなかったの」
「うん、まぁ…お恥ずかしながらそういう感じです」
「………」
「もしかして、浅羽くんも聞いてなかった…?」
「うん」
「即答ですか」
もう一度隣の子を見てみた。たぶん、こうだと思う…。
「あれ、次わかんないや」
「こうじゃない?」
浅羽くんが近付いてきて、肩が軽く触れる。びっくりして、浅羽くんにバレないように少し離れた。彼はそんなこと気にも止めていないみたい。
ちょっとだけ心臓がどきどきしてる。触れた肩の部分から、じわりと熱が広がった。これはきっと、急なことにびっくりしたからこうなってるのよ、うん。
ちらりと浅羽くんを盗み見たけど、やっぱり全然気にしていないみたいだった。…浅羽くんは、横顔もきれいなんだな。少しだけ見惚れてしまった。
あ、手もきれい。白くて指がすっと伸びていてきれいだけど骨ばっていて、それはちゃんと男の子の手だった。
…浅羽くんが弄っているリボンになりたいな、なんて考えた自分が変態みたいで軽く自分に引いた。(塚原くんのこと引くわーとか言っちゃったけど人のこと言えないや)
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