その手をずっと | ナノ
小の男の鼻歌
「ゆ、ゆっきーおはよう…」
「ん、おはよう」
よよよ、よかった!ゆっきーいつも通りだ!自分の席で無表情で携帯いじってるからさ、てっきり昨日のことまだ怒ってるのかと思ってたけど、もう大丈夫みたい。
…あ、よくよく考えてみれば、無表情なのはいつものことだった!
「あー…昨日さぁ、結局なっちゃん見失っちゃって、すぐに解散したんだよね〜…」
「そうなんだ」
昨日の話題を出してみたけど、マズかったかなぁ。ゆっきーはいつもどおりだけど、俺の方がなんだか気まずい…謝った方がいいのかなぁ…。ゆっきー怒ってたみたいだし。
いろいろ考えを巡らせながら廊下を見ると、見慣れた姿が目に入った。
「あ、なっちゃんだ」
「え」
小さく声を漏らしたゆっきーも、携帯から廊下へ視線を移した。なっちゃんといつものようにバカ騒ぎできるから嬉しくなってきたけど、隣に昨日の男がいて一気にテンションが下がった。昨日はお似合いとか言っちゃったけど、ほんとは俺、まだお前がなっちゃんの彼氏なんて認めてないからな!お前なんか、“なっちゃんの彼氏(仮)”だ!まぁこの(仮)は永遠に取れないけどな!
「別に教室まで一緒に来てくれなくてもよかったのに」
「いいじゃん。それに俺がこうしたいんだからさ」
さりげなくなっちゃんの肩に触る男にイラッとした。なんだよ、見せつけちゃってさ!
「じゃあまたね」
「あぁ、じゃーな」
なっちゃんは男と別れて教室に入ってきた。入り口の近くにいたクラスメートに挨拶して、楽しそうに会話をしている。
早くこっちに来ればいいのにな。なっちゃんの席だってこっちだし、なっちゃんと喋ればゆっきーとの気まずさもなくなるかもしれないし。
ふと、廊下を見るとあの男と目があった。じーっと見てくるから俺も負けじと見返した。なんだよあの目付き、感じ悪いな。
すぐに視線が後ろに外れたから、今度はゆっきーが見られてるんだろうな。ゆっきーを見ると、いつもの顔で見返していた。
チャイムが鳴ったから、その男は教室に帰ったみたいだ。ゆっきーは何を考えてるんだろう。俺にはわからない。
「2人ともおはよー」
なっちゃんがやって来て、俺のテンションは一気に上がった。自然とゆっきーの表情もやわらかくなった気がする。なっちゃん効果はすごい。
「昨日の帰りはなっちゃんがいないから寂しかったよー!」
「大の男がなに言ってんの。あ、小だったね。ごめんごめん」
「なっちゃんまでそういうこと言う!ゆっきー何とか言ってやってよ」
「事実だから言い返せないんでしょ。だからって俺に振らないでよ」
よかった、ゆっきーともいつもみたいに話せた。それにゆっきーは心なしか嬉しそうにも見える。もちろん俺もだけど。
担任が入ってきて、朝のHRが始まったから会話はおわっちゃったけど、休み時間になればいつでも喋れることが嬉しくて、つい鼻唄を歌ってしまった。
「へたっぴ」
ぼそっとそう言うゆっきーにはHR中とはいえ、ちゃんと突っかかっておいた。そしてそれを見て笑う前の席のなっちゃん。やっぱりこうでないと、つまんないよな!
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