その手をずっと | ナノ
似合ってなんかない



自分に起きている変化の原因に、祐希はまだ気付いていない。


靴箱で誰かを待つ名字さんに気付かれないように、コソコソと隠れて待機する俺たち5人。

祐希は俺と同じで基本的に無表情だけど、ここ最近はむすっとしていることが多い。今だって他の3人は気付いてないけど、眉間にシワを寄せて名字さんを見ている。


「来た来た来たぁ!」

「あっ、もう外出ていきますよ」

「よし、俺たちも続けぇい!」

「静かにしろサル!バレたらどうすんだよ!!」


いや、今のは要が1番うるさいよ。

急いで靴を履き替えて、駆け出す千鶴に続いて俺たちは名字さんたちの後ろを歩きだした。


「あの男の人、誰なんでしょう…僕見たことありません」

「祐希は知ってる?」

「知らない」


さっきからずっと黙ってるから話を振ってあげたのに、祐希は俺と目も合わさずに即答した。


「アイツ、1組のやつだよ」

「要っち知ってんの!?」

「クラスだけな」

「1組かぁ…。にしてもちょっとチャラいよね。なっちゃんああいうのが好みなのかな」


祐希の眉間のシワが一段と深くなる。頼むから俺に八つ当たりしないでよ…。


「なっちゃんには悪いけどさぁ、ぶっちゃけ不良じゃん。ヤンキーじゃん」

「類は友を呼ぶっていうからな」

「要っちひどい!でも確かになっちゃんの第一印象は…そっちの人なのかな、って思ったりもしたけど…」

「ま、ある意味お似合いなんじゃね」

「悔しいけど、背は高いからその辺は釣り合ってるよねー」

「ちょっと、」


ようやく祐希が自分から口を開いた。ただ、いつもより低くて不機嫌そうな声だけど。


「君たちの目は節穴ですか。あんなの名字さんにはまったく似合ってないし、釣り合ってもない」

「あのっ、祐希くん…」

「帰る」


呆気にとられた千鶴と要を置いて、祐希は踵を返して今来た道を歩き出した。心配して祐希を追いかけようとする春を制して、俺も帰るよと告げた。

いつもはのろのろとして、お世辞にも早いとは言えないスピードで歩く祐希だけど、今日は普段の3倍くらいのスピードだった。

軽く走らないと追い付けないほど離れていたので、俺はそうしてようやく祐希の隣に並んだ。


「祐希」

「俺1人で帰るから、悠太は行ってきていいよ」

「いや、俺ももういいよ」

「あ、そ」


ちらりと祐希の顔を盗み見ると、相変わらず眉間にシワを寄せたままだ。口は尖らせていて、小さい頃と同じ顔で怒っていた。それを見て思わず口元が緩んでしまう。祐希にバレるといろいろと面倒だろうから、バレないように慌てて手で口元を覆った。


「なに笑ってるの」

「バレちゃいましたか」

「ねぇ、なんで笑ってるの」

「呆気にとられた千鶴と要の顔思い出したらおかしくて」


嘘。本当は、祐希が名字さんのことで怒ってるから笑ったんだ。

祐希は昔から幼なじみ4人で過ごしてきたから女友達はいなかったし、春や要が俺たち以外と仲良くしてても怒ったりなんかしなかった。

でも名字さんは、その両方を初めて祐希に経験させてくれた。おかげで祐希の機嫌は悪いけど、それが嬉しくて仕方がない。


「悠太もお似合いだと思う?」

「思わないよ」


祐希は目を少し見開いて、安心したように息を吐いた。


「そうだよね。やっぱ千鶴と要はセンス悪いよ。千鶴なんてあんな髪型してるし」


いつもの祐希に戻ったことに安心しながら、俺たちは同じ家へと足を進めた。



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