その手をずっと | ナノ
イライラの原因は



「……私、彼氏できたんだ」


「………」


「だからお昼とか放課後とか、あんまり一緒に居られなくなるかも」


さっきからずっと、名字さんの言葉が頭から離れない。

そんな爆弾発言をした名字さんは、携帯に電話がかかってきたから教室から出ていってしまった。名字さんの喋る感じからして、電話の相手はその彼氏なんじゃないかと思う。


「名前ちゃんに彼氏…どんな方なんでしょうね。要くん、心当たりありませんか?」

「いや…俺はまったく…」

「要っち!君は何のために眼鏡かけてんの!?そんなことにも気付けないような眼鏡なら外しちまえ!」

「うるせーな!黙ってろサル!」


いやいや、うるさいのは要の方だから。いろいろ考えてたのにおかげで吹っ飛んじゃったよ。


「そういえばなっちゃんさぁ、最近休み時間になるとよく教室から出て行ってたんだよねー」

「もしかしたら彼氏さんと会ってたのかもしれないですね」


そういえばそうだ。最近、名字さんは休み時間のたびにどこかへ行っていた。そして、なぜか俺は休み時間のたびにイライラしていた。理由はわからないけど、名字さんは近くにいなかったから八つ当たりをしてしまわなくてよかったと思う。ちなみに八つ当たりは千鶴にしていた。


「祐希、」

「ん、なに悠太」

「…大丈夫?」

「え。…なにが?」


最近、悠太によくわからないことを言われてる気がする。


「そうだ!今日の放課後、なっちゃんを尾行しようよ!」


そしたら彼氏が誰かはっきりするし!と千鶴は握りこぶしをつくって目を輝かせた。

春や要は彼氏が誰なのか内心は気になっていたようで、千鶴の提案にまんざらでもないような顔をしていた。



* * *


今日最後の授業のチャイムが鳴って、教室は一気にざわつき始めた。みんな放課後になったから嬉しそうだ。

いつもの俺なら、周りと同じように放課後になると少なからず嬉しかった。授業を受けなくていいし、本屋に寄ったりもできる。何でも自由に好きなことができる。

荷物を鞄につめた名字さんは、静かに席を立った。それに気付いた千鶴が声をあげる。


「ばいばい、なっちゃん!」

「うん、ばいばい」


名字さんが俺を見てきたので、ひらひらと手を振った。


「祐希くんも、ばいばい」


名字さんが笑う。俺たちと帰らずに彼氏とデートすることがそんなに嬉しいのか。少しムカついてしまった。

名字さんが教室を出た途端、急に張り切り出す千鶴も、帰りに買い物行こうとかお茶しようとか、楽しそうに話すクラスの女子も、部活の道具を抱えて週末の試合の話をしながら出ていくクラスの男子も、いつもはなんとも思わないのに、

無性にムカついた。



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