その手をずっと | ナノ
私じゃない好きな人



あーあ、祐希くんにはますます渡しにくくなっちゃったな。

さっき頼まれてた分を渡すときに私のも一緒に渡せばよかった。でも今さら、「私も作ってきたの…」なんて渡せるわけないしなー。まずキャラじゃないし。

千鶴たちの分もちゃんと作ってきたのに、祐希くんに渡さないとみんなにも渡せないよね…1人だけあげないとか悪いし。


ほんとは祐希くんにチョコを用意するつもりはなかった。クリスマスのことがきっかけで祐希くんとの噂がたったし、その噂のせいで先輩には目をつけられてしまったし。問題は解決したけど、こんな風に思ってるのはきっとあの先輩たちだけじゃない。

それに祐希くんのことを好きな子だってきっといる。今日これだけのチョコを渡すように頼まれたんだから、1人くらいは本気で好きでも不思議じゃない。

もしその子が私のことを気にして引き下がっているとしたら、本当にその子はもったいないことをしていると思う。何もせずにいれば無理だとしても、何かしら行動を起こせば祐希くんは振り向いてくれるかもしれないんだから。

そんなことを考えていると、例え義理だとしても私が祐希くんにチョコを渡すだけでその子の可能性を奪ってしまっている気がして、自然とチョコを作る手を止めてしまっていた。結局ついでだと割りきって準備したはいいけど、いざ渡すとなると躊躇ってしまう。私のチョコ1つで何か変わると決まってしまったわけじゃないのにね。

もやもやしながら休み時間に中庭を歩いていると、祐希くんを見つけた。その少し前を女の子が歩いている。体育館裏の方へ向かっていて、いけないとは思いつつそのままこっそりと着いていった。


「わざわざごめんね。…あの、それ作ったから、よかったら食べて…ください」


一緒にいた女の子は、クリスマスに映画館で会ったクラスの子の1人だった。香織が言ってた「結構浅羽くんに本気の子」ってあの子だったんだ。雰囲気からして、本気度は相当のものだと思う。


「それで…あの、祐希くんって、彼女いる?」

「いないよ」

「あっ、そうなんだ…」


それなら知ってる。祐希くんに今彼女はいない。私が知っていたことをその子は知らなかったみたいで、そのことに関して少し優越感を抱いた。性格悪いなぁ、私…。


「じゃあす、好きな人はいる…?」

「…うん」

「そう、なんだ」


そんなの、私知らない。知らないよ。

祐希くん、好きな人いたんだ。聞いたことなかった。さっき優越感を抱いた自分がすごく惨めに感じる。私はただの友達なのに、祐希くんに好きな人がいることが…気に入らない。


「それってもしかして、名前ちゃん?」

「え、なんで」

「だってクリスマスに一緒に映画見に行ったでしょ…?」

「なんで知ってるの」

「………」


ちょっと祐希くん!私たち映画館でその子と会ったんだよ…!本気で覚えてないの?それとも意識すらしてなかったの?


「とりあえず、名字さんじゃないから」


じゃあ誰なのよ。好きな人って。私知らないよ、聞いてないよ。

なんだかもやもやする…。


「やっと見つけた…名字さん!」


振り向くと、喋ったことのない男の子が立っていた。たぶん1組の子だ。1組の友達に会いに行ったときに見たことがある。ていうか声大きい!


「しーっ!!」

「あ、ごめん…。え、あれって告白現場?」

「未遂だけどね」

「そうなんだ…。あれ、じゃあもしかして名字さんって浅羽くんのこと?」


何よ。最後までちゃんと言いなさいって!まぁ、話の流れで何が言いたいのかはわかるんだけど…。


「別に好きとかじゃないわよ」

「そっか。よかったー!」


………はい?


「いきなりで悪いんだけど、俺名字さんが好きなんだ。付き合ってもらいたいんだけど…いいかな」


私、あなたと今初めて話したんだよ?そんなことが頭をよぎったけど、すぐに頭の隅に追いやられた。


「名字さんが俺のことを好きじゃないのはわかってる。でも嫌いじゃないなら、試しに付き合ってよ」

「……いいよ」


祐希くんに好きな人がいると聞いて、なんだかよくわからないけどじゃあ私も別にいいか、と思ってしまった。

見た目がタイプなわけじゃないけどまぁかっこいいし、少し話しただけだけど話しやすかったし。…これくらいで付き合うことを決めてしまうなんて、私はどうかしてるんじゃないだろうか。そうだと気付いても、もう遅い。


「じゃあこれからよろしく!」

「……うん。こちらこそ」


後悔することになるとは、このときは思いもしなかった。



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