その手をずっと | ナノ
モテすぎるのも考えもの



「名前ちゃん、祐希くんと仲良いよね?お願いなんだけど…」


「名前ちゃん、祐希くんってチョコ好きかな?これ…」


「名前ちゃん、このケーキ、祐希くんに作ったんだけど…」


イライラ。イライライライラ。


「名前ちゃ「わかったわかった渡しとく!」

「あの…ノート提出してほしくて…」

「あ、ごめん…」


その子にはちゃんともう一回謝ってからノートを渡した。せっかくわざわざ私のところにまで来てくれたのに、本当に申し訳ない。視線を感じて後ろに振り返ると、席に座った千鶴と目が合った。


「……何かご用ですか?」

「いやぁ…なっちゃん機嫌わるいなぁと思って…」

「わるくないよ。超ご機嫌ですぅー」

「そう言うわりには目付きがめちゃくちゃこわいんだけど…」


さっき自販機の側で会った子を筆頭に、次々と祐希くんへのチョコを頼まれてしまった。最初のうちはいいよいいよって安請け合いしてたんだけど、5人6人と増えてきたらさすがにね…。普段はこんなに短気じゃないのにイラッイラする。


「名前ちゃん!」


廊下から名前を呼ばれる。まさかね、と思いながら教室を出た。さっきまでのイライラを落ち着かせるために大きく深呼吸した。


「どうしたの?」

「これ祐希くんに…」


だったらさっき私じゃなくて祐希くん本人を呼びなさいよぉぉぉ!!

私の斜め後ろに座ってたでしょ!?しかもめちゃくちゃ暇そうにしてたし、お腹空いたとか言ってたよ!?絶対受け取ってもらえるじゃん!男子高校生はまだまだ成長期なのよ!成長期なめんな!

…なんてことを目の前の彼女に言えるはずがなく…。


「…………」

「あの、名前ちゃん?」

「…いいよ、渡しとくね」

「ありがとう!」


にこにこ笑ってその子は去っていった。対称的に私は口角すら上がらない。どっと疲れが出てきた。


「うわーお、名字さんモテモテー」


席に戻ると祐希くんにからかわれてさらにイライラした。これもあれも全部あんた宛だっての。…そうだ、今までに預かったものを全部持ってるからイライラするんだ。だったらもう渡してしまおう。

紙袋にまとめて入れてあった祐希くん宛のチョコを、祐希くんの机の上にバラバラとばらまいた。


「なにこれ?」

「バレンタインのチョコレートでーす。ぜーんぶ祐希くんの。」

「……何か怒ってます?」

「怒ってなんかないよ」


怒ってなんかない、ただイライラしてるだけ。一緒だなんて文句は受け付けません。

なんなのほんと。祐希くん、どれだけモテれば気がすむのよ。バカ。



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