その手をずっと | ナノ
バレンタイン



自販機の前で祐希くんに助けられてから、先輩たちに呼び出されることはなくなった。私が祐希くんに擦り寄っていると思われていたらしく、この間祐希くんが私の手を引いているところを見て違うと気付いたみたいだ。

とにもかくにも祐希くんのおかげで私は助かったのだ。


「なっちゃんおはよー!」

「おはよう千鶴。相変わらずうっとうしいくらいにハイテンションだね」

「ひど…っ!」


満面の笑みで千鶴にそう告げる。千鶴の反応がおもしろいからついついいじめてみたくなってしまう。千鶴を筆頭に、いつもの5人と合流した。


「なっちゃん!」
「名字さん」

「……なに?」


千鶴と祐希くんが両手の掌を差し出してきた。明らかに何かをねだっている。


「チョコだよチョコ!今日バレンタインじゃーん!」


祐希くんが千鶴の隣でコクコクと何度も頷いている。


「もちろん俺たちにも作って「ないよ」

「え…?」

「いやだから、君たちにはないよ」

「………うそだー!!!」


うわああぁ!!!と叫びながら千鶴は駆け出して行ってしまった。ちらりと祐希くんを見ると、放心状態になっていた。少しして我に返った祐希くんが指差して言う。


「…じゃあその紙袋の中身は?」

「チョコ」

「…!」


分かりやすく嬉しそうな顔になった。祐希くんに犬の耳と尻尾が見える。耳はピンと立ち、尻尾はパタパタと揺れていそうだ。


「でもこれ友達の分だから」

「………」


耳は垂れ下がって、尻尾はしゅんと項垂れてしまった。



* * *


教室につくと、先に教室に着いた千鶴が遠くから見てもわかるほどにいじけていた。


「あーあ。今年はチョコ1個は確実だと思ってたのに!」

「私のはあてにしないの」

「ひどいよなっちゃん…俺たち友達だと思ってたのに!」

「本来バレンタインは好きな子にあげるものだからねぇ…」


千鶴はぷんすか怒って席についた。祐希くんも隣の席に座る。


「大人の男ってのはこんなイベントに惑わされず、勉学に励むもんなのよ!」


2人がそれぞれ筆箱と教科書を取り出すと、祐希くんの机からはきれいに包装されたチョコが出てきた。


「ゆっきー!!!」

「あれ、筆箱がおしゃれになってる…」

「さすが祐希くん…千鶴とは大違いのモテっぷりだね」

「もうやだなっちゃんー!俺もほしい!チョコちょーだい!!」

「みっともないからやめなよ千鶴…」

「ゆっきーに言われたら余計腹立つんだよ!!」


本当は作ってきてる、なんて言えなくなっちゃったなぁ…。



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