その手をずっと | ナノ
いろいろバレる
「祐希、お前英語の予習ちゃんとやってたんだな」
お昼休み。食堂でお昼を食べていると、カツ丼を食べる手を止めた要がそう言った。言い終わってから再びさっきのカツを口に運ぶ。あ、あれさっき私がちょうだいって言ったのにくれなかったやつだ。おいしそう。
「あぁ、あれ名字さんに見せてもらった」
「なんだそうか。名字が予習してきてることにも驚きだが…名字、あんま祐希甘やかすんじゃねぇぞ」
「私だって予習くらいやりますぅ。まぁ今日だけは特別にね」
さっき食べられたカツは諦めて、残りの要のカツをじっと見ながら自分のうどんをずずっと吸った。ここで悠太くんならしょうがないな、って言って分けてくれるのに(悠太くんにはねだったことがないから多分だけど)。
「あとお前な、嘘つくの下手すぎ」
「ふぇ?ほーいうほほよ」
「食いながら喋んな!春も、こいつ甘やかすとめんどくせぇからエビフライやらなくていい!」
「「要うるさいよ」」
悠太くんと祐希くんが迷惑そうな顔をしてそう言った。うん、エビフライ衣がさくさくしてておいしい。
「やっぱり上靴がなくなったのもあの先輩たちのせいだったんだな」
「ちょっと、何で知ってるのよ」
「小ザルに聞いた」
千鶴か…。
「でもなっちゃんスゴいよね。先輩からの呼び出しすっぽかすんだもんなー」
え?何で知ってんの?
千鶴の隣に座る祐希くんがもー、と言って千鶴を肘で小突いた。はっとした千鶴の目はきょろきょろと動いていて落ち着きがない。
「えっと、それはその…」
「あー、あの封筒の中身見たんだ。だからなくなってたのね」
あと机の中がぐちゃぐちゃになってたし。そう言うとそれも千鶴が…と祐希くん。
「それで、名字さんはすっぽかしてどこ行ってたの?」
悠太くんに尋ねられた。
「トイレ」
「お前、強ぇな…」
「うん。春ちゃんよりはそういうとこ強いと思うよ。それに私春ちゃんより男っぽいし」
「えっ!そんなことないですよ〜。名前ちゃんは女の子なんですから」
ありがとう春ちゃん、私を女扱いしてくれて…。でも私ね、お菓子作りが趣味でかわいい柄の絆創膏を常備してる春ちゃんには女として勝てる気がしない…。
「でもさ、要さっき名字さんに嘘つくの下手すぎとか言ってたけど、今回の件は千鶴に聞いたからわかったんだよね」
さすが悠太くん、鋭いなぁ。私なんか全然気付かなかったよ。
「俺は小ザルに聞く前から疑ってたんだよ。…とにかく、今回みたいに何かあったら俺らに言えよ」
「そうですよ名前ちゃん、僕たちが力になりますから!」
「ありがとう春ちゃん…!」
心がじーんとして少しうるっときた。隣で要が春だけかよ!と怒っている。はいはい、もちろん要もだよ。要も心配してくれてるのがよく伝わってくる。
「でもさなっちゃん、やっぱり今までも今回みたいに言われたことあるの?」
「………………うーん」
「あるんだな」
「…文化祭のときに1回言われた、かな」
「もしかしてそれも祐希絡みで?」
「………………いやぁ…」
「お前やっぱ嘘つくの下手だな」
「いつ言われたの?」
食べかけのハンバーグを置いて祐希くんに尋ねられた。ハンバーグ…なんか似合うな。
「ほらあの、後夜祭で祐希くんが告白されてる間に」
「え!!?ゆっきー告白されたの!?」
「なにそれ祐希、お兄ちゃん聞いてないよ」
「祐希くんはやっぱりモテますねー!」
「協調性ゼロのこいつのどこがいいんだか」
「もー…名字さん…」
「………ごめん」
4人にバレてしまっただけでなく、千鶴が大声出すからまわりの人にも聞かれてしまった。食堂のおばさんには元気ねぇ、と笑われてしまう始末。少し機嫌が悪くなった祐希くんを気にかけながら悠太くんが口を開く。
「それで何て言われたの?」
「言われたのは祐希くんに告白した子の友達の方なんだけど、『あの子祐希くんのこと好きだからベタベタしないでくれない?』とかなんとか」
「それで名前ちゃんは何て返したんですか?」
「何も返してないよ?無視無視。」
「はぁ!?」
「なっちゃんすげーっ!」
千鶴が両手を拳にしてキラキラした瞳で興奮気味にそう言った。要は信じられないと言ったように大きくため息をつく。
「適当に何か言っとけばいいじゃねぇか。それじゃ余計に神経逆撫でしちまうだろ?」
「えー、適当に言う方が神経逆撫でしない?それに相手するのめんどくさいじゃん。そんなこと言われても……ねぇ?それで祐希くんがあんたの友達好きになるのかって話ですよ」
「名字さんさすがだね…祐希」
「………うん」
「あー、だからね、祐希くん。そういうわけで私は全然平気だから、気にしないでね」
「…………うん」
「まぁ、そういうのがあまりにもムカついて我慢できなくなったら、その時は話だけでも聞いてよ」
ね、と返事を促すとまたうん、と言って頷いてくれた。
「なっちゃんかっこいー!アネゴー!」
「その呼び方は絶対やめて」
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