その手をずっと | ナノ
呼び出し



登校して自分の靴箱を開けると、封筒が入っていた。いたってシンプルな封筒。なんだろうと封筒をじっと見て心当たりがないか考えていると、視界に黄色いものが入ってきた。そう気付けばそれはすぐ私の体にぶつかってきて、耐えきれずに2人で倒れ込んでしまった。


「いったー…」

「ごっ、ごめんなっちゃん!めんごめんご!」

「最後の一言にまったく誠意が感じられないんですが」


ていうか重いから退いてよ!


「こらこら千鶴、名字さん重そうでしょ」


祐希くんがしゃがんで、私の顔を覗き込む。大丈夫?と言いながら首をかしげる姿にどきんと心臓が跳ねた。これは祐希くんが悪い、私は何も悪くない…!


「立てる?」


手を差しのべてくれるけど素直に従えない。だってなんか恥ずかしいし。


「大丈夫、1人で立てるよ」

「遠慮しなくてもいい、よ」

「う、わっ」


ぐん、と腕を引っ張られる。急だったから足元がふらついて、祐希くんの胸に倒れ込む形になってしまった。


「ごっ、ごごごごめん!」

「?いいえ」


ひょろひょろかと思えば、意外とがっしりしてて…それにいい匂いもしたなぁ。…って私のバカ!今のはちょっと変態みたいだよ…


「最近ボーッとしてるみたいだけど、大丈夫なの?」

「そうそう!俺が授業中ちょっかいかけても、なっちゃん気付かないしさー」

「それはただ千鶴が無視されてるだけだと思うよ」

「大丈夫、大丈夫!別になんともないから。…あれ、今日悠太くんたちは?」

「君たちのやりとりに時間かかりそうだから先に行くって。…名字さん聞いてなかったの?」

「え、あー聞いてたよ?うん」

「………」


言えない。祐希くんを意識してて他の人たちの存在に気付いてなかったなんて口が避けても言えない…。実際千鶴のことも「そうそう!俺が授業中〜」って喋りだしてからそういえば居たなあ、って思い出したくらいだし。

しっかりしろ、私。


「あ、なにそれ!」

「これ?靴箱の中に入ってたの」

「もしかしてラブレター!?誰から?ねぇ誰から?」

「千鶴うるさいよ」

「ゆっきーだって気になるでしょ!?」

「………」

「ゆっきー?」

「…そりゃあ、まぁ」

「ってことでなっちゃん、中身見せてよ」

「ダメ。私だってまだ見てないし、間違いだったらどーすんの」


中身を勝手に見ようとした千鶴を軽く叩いてから封筒を取り上げた。なんだよなっちゃんのケチー!と頬を膨らませた千鶴を無視して先に教室に入った。


「ちーさまを無視しようなんざ100万年早いわー!!」

「うわっ、だから急に飛び付いてこないでってば!!」

「仲良しだねぇ…君たち」


祐希くんに哀れみの目を向けられてしまった。



* * *


「名前ちゃん、3年の先輩たちが呼んでるよ」


クラスの女の子にそう言われて、ありがとうと告げて廊下へと向かった。千鶴のなっちゃん告白されたりしてー!と1人楽しそうな声が聞こえる。そっちの方がいくらかマシだな。

廊下に出ると、3年っぽい女の人が3人立っていた。まず同性だし、私を見る目付きからして告白なんかじゃないことにすぐ気付いた。

着いてきて、とリーダーっぽい真ん中ポジションの人に言われて屋上へと連れてこられた。幸か不幸か屋上には誰もいない。


「あんた祐希くんと付き合ってんの?」


名前呼び。双子だからややこしいとはいえ、やっぱりこの人が名前で呼ぶことにすごく違和感がある。


「付き合ってませんけど」

「じゃあちょっと仲良すぎじゃない?」

「仲が良いのは別にあなたたちには関係ないと思いますよ」

「なにコイツ生意気!」


右手を振り上げてビンタしようとしてきたので、ひょいと避けてやった。それが勘に触ったのか、先輩たちのますます怒りはヒートアップした。


「あんまり調子に乗るんじゃねーぞ!!」


と汚い言葉遣いで捨て台詞を吐き捨て、先輩たちは去っていった。

最近、ていうか冬休み明けに祐希くんとの噂がたってから、ちょくちょくさっきみたいに呼び出されて文句を言われるようになった。千鶴たちを含めた5人と仲が良いのは許せるけど、祐希くんと2人で親密な関係になるのは許せないみたいだ。

呼び出されるようになって改めて気付いたけど、やっぱり祐希くんはモテるんだなぁ。今回私と噂になったのが祐希くんだったから気付いたけど、きっと悠太くんの人気もなかなかのものなんだろう。

少し距離をおいた方がいいのかなぁ。私が先輩たちにこんなことを言われるのは大丈夫なんだけど、祐希くんに迷惑が及ぶのは耐えられない。でも祐希くんといるの楽しいしなぁ…。

授業開始のチャイムが鳴ったので、小走りで教室に戻った。



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