その手をずっと | ナノ
案外男らしい
新年が明けてから1週間経った頃、新学期が始まった。少しだけ久しぶりな学校の廊下を歩いていると、みんなが(主に女子が)私をチラチラと見てくる。自意識過剰なんかじゃないみたいで、本当に見られてる。
教室のドアを開けると、みんなが一斉に私を見た。私何かしたかな?でも冬休み中は普通にだらだら過ごしただけだし、注目されるようなことはしてないけど…。
「なっちゃんおはよー!」
「おはよう千鶴」
元気100%の千鶴が教室に入ってきた。祐希くんも一緒だ。祐希くんとも挨拶を交わすと、一気に教室の中の人が(主に女子が)ざわめき始めた。
だけどこれで確信した。私が見られていた原因は祐希くんにもあるみたいだ。
「名前、ちょっとちょっと」
香織に手招きされたので寄っていくと、廊下に連れ出された。
「あんたたちがクリスマスにデートしてたこと、私と一緒にいた子達が発端で一気に広がっちゃったみたい」
「冬休み中のことだからって完全に油断してた。だからかー…みんなの視線がすごく痛い」
「あの子達の中に結構浅羽くんに本気の子がいてさ…」
「あ、そうだったの」
「気付かなかった?あんたのこと、ものすごく羨ましそうに見てたよ」
全っ然気付かなかった…
「とりあえず、クリスマスにデートしてたのは本当のことだし、いつもどおりでいればいいと思うよ」
もちろんそうするつもり。
教室に戻ると、さっきほどではないけどやっぱり見られた。私は別にこれくらいなら平気だけど、祐希くんには申し訳ない。まぁ、当の本人は今の状態に気付いですらいないかもしれないけど。
千鶴はどこかに行ってしまったみたいで、姿は見当たらない。
「祐希くん」
祐希くんの前の席に座って話しかけると、祐希くん本人だけじゃなくて多くのクラスメートも反応した。
なんなのよもう…
周りの反応がすごくめんどくさくて、はぁぁぁぁと気の抜けたため息をついて祐希くんの机にうつ伏せになった。
「なんなんですか」
「…話しかけただけでいちいち反応しなくたっていいのにね」
「あぁ…」
「あれ、もしかして気付いてた?」
「気付かない方がおかしいでしょ、あんなにあからさまなのに」
「……だよねぇ」
私祐希くんは気付いてないと思ってた。と言うと、こう見えて結構こういうのには鋭いんだよ。と返された。
うそだ。意外すぎる。
私は机にうつ伏せになったまま話を続けた。
「…これね、クリスマスに私たちが2人で遊んでたのが原因みたい」
「そうなんだ…」
「ごめんね、迷惑かけて」
「こんな風に落ち込んで素直に謝るなんて、らしくないね」
「私は別にこういうのは平気なんだけど、祐希くんまで周りにジロジロ見られるのが申し訳なくて」
突然、頭の上に暖かいものが乗せられて、次に髪の毛をわしゃわしゃとかき混ぜられた。それで最初の暖かいものは手だったんだと気付く。クラスの女の子たちが一気にざわめきだしたから急いで顔をあげた。
「なっ、何やってんのよ!」
こういうことしたら逆効果じゃない!
「なんか名字さんがしょんぼりしてる犬に見えたから、つい」
「こんなことしたら、話が余計にややこしく…!」
「周りにどう見られても関係ないよ」
祐希くんがそういうことを言うとは思わなくて、びっくりしてその顔をじっと見つめていた。
「クリスマスに2人で会ってたのは事実なんだし、ただ遊んだだけでやましいことなんかないんだから」
周りに聞こえてもお構い無しな祐希くんからますます目が離せなくなった。あれ、この人こんなことハッキリ言うような人だったっけ?
「名字さんってすぐ顔赤くなるよね」
「うっ、うそ」
「ほんと」
自分の頬を両手で包むと、確かに熱かった。これは赤くなってると思う。
「あと髪もボサボサのままだし」
「これは祐希くんのせいでしょ…って何すんの!!」
祐希くんが手で私の髪を整え出した。慌てて払い除けようとしたけど祐希くんの力には敵わなくて、恥ずかしいから余計に顔が熱くなる。
「いいよ、自分で直すから…って祐希くん直してくれる気ないでしょ!ますますボサボサになってる気がするんですけど!」
「あぁ、やっと気付いた?」
千鶴が帰ってきて、「ゆっきーとなっちゃんってクリスマスに2人でデートしてたの!?何で俺も誘ってくれなかったんだよ!」ってめんどくさいことになるまで、私は散々祐希くんにからかわれてしまったのでした。
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