その手をずっと | ナノ
巻き込まれる



今日は大晦日。朝から自分の部屋の掃除をはじめ、家中の掃除の手伝いまでさせられてもうヘトヘトだ。掃除もちゃんと終わらせることができて、一息ついていたところに要からの着信があった。

今さっきかけてくれたみたいで、マナーモードになってたから気付かなかった。かけ直すと、すぐに要のめんどくさそうな声が聞こえた。


『名字、今暇か?』

「今ちょうど暇になったところだけど…どうしたの?」

『祐希が今うちにいてさ、めんどくせーから相手するなり引き取るなりしてくんねーかな』

「何で私が…それはいつも悠太くんの役目でしょ」


それにクリスマスのこともあるし、喧嘩した訳じゃないけどなんだか祐希くんとは顔を合わせづらい。


『その悠太が来てくんねーからお前に頼んでんだよ。いいからさっさと来い』


強引に電話を切られてしまった。そっちから頼んできたのになんで最後はあんな偉そうになってるんだろう。これだからボンボンは。

行かないとまた電話がかかってきそうだし、仕方ないから要の家に向かうことにした。



* * *


「おせーよ」

「来てあげたのになんなのその言い草は」


帰る、と要に背を向けて帰ろうとすると、慌ててあー悪い悪い、と適当に謝られた。私だってそこまで暇じゃないんですよ。


「あ、名字さん」


リビングに入ると、クッションを抱えた祐希くんが膝を立ててソファに座っていた。


「祐希くん何してんの?」

「俺、今日から塚原家の一員になったから」

「え、そうなの要?」

「んなわけねーだろ!コイツが勝手にそう言ってんだよ」

「あら、おばさんは構わないわよ?」


廊下からひょっこり顔を出して要のお母さんがそう言ったので、おじゃましてます、と挨拶をした。


「こいつ悠太と喧嘩したらしくてさ」

「えっ、そんなことあるの?」

「な?珍しいだろ」

「…悠太が悪いんだよ」


頬を膨らませた祐希くんが割り込んできた。いつも仲良しの浅羽兄弟が喧嘩するなんてほんとに珍しい。

じゃあ頼むわ。と言い残して要は他の部屋の掃除に行ってしまった。私は祐希くんの隣にゆっくりと腰を下ろす。


「まぁ理由は知らないけどさ、謝った方がいいんじゃない?」

「……名字さんまで悠太の味方するの」

「そういうわけじゃないけど…」


なにいじけてんのこの子…!

いつもと違う祐希くんに戸惑っていると、ポケットに入っていた携帯が震えた。悠太くんからだ。立ち上がって通話ボタンを押す。


「もしもし?」

『名字さん…今大丈夫?』

「うん大丈夫ー。どうしたの?」

『ちょっと聞いてもらいたいことがあるんだけど…出てこられない?』


悠太くんの声が少しだけ元気がない気がする。心配だな…。行ってあげたいけど祐希くんも祐希くんで今ちょっと手が離せないし…。


「えっと、今から…?」


祐希くんが私を見上げて、ぐいっと服の裾を引っ張った。うわっ、上目遣い…!反則技だ!

悠太くんへの返事に困っていると、今度は腕を思いきり引かれて祐希くんに倒れ込む形になってしまった。次に素早く携帯を取り上げられて、電源ボタンを押されてしまう。


「うわ、近っ…!」

「今の悠太からでしょ」


すぐに顔が熱くなる。祐希くんの顔色は変わってなくて、至近距離のまま普通に喋りかけてきた。


「…そうだけど」

「悠太のとこになんか行かないで、ここにいてよ」


真剣な表情で見つめられて、瞬きひとつできなかった。

とりあえず顔と顔の距離が近いから離れるために起き上がろうとしたけど、腕を掴まれて動けなくなってしまった。


「……わかった、ここにいるよ…」


そう言うと、祐希くんはすぐに手を話してくれた。あんな至近距離はダメだよ。それにあんなの誰かに見られたら誤解しかねな…


「………」

「か、要…!」


人の気配がして振り向くと、要が口を開けて雑巾を片手に突っ立っていた。私と同様、開いた口が塞がらないみたいだ。


「ちがっ、そういうんじゃなくてね、要」

「お前らそうだったのか。へー…知らなかったわ。俺の見てないところでそんなことを…しかも大晦日の人んちで」

「要落ち着いて!?違うよ?違うからね。とりあえず一旦落ち着こう、ね?」


すると、ピンポーンとチャイムの音がした。塚原家に加わるものとして挨拶しとこう、と言った祐希くんに続いて玄関に行くと、ドアの向こうにはマフラーを首に巻いた悠太くんが立っていた。

どうやら祐希くんを迎えに来たみたいで、祐希くんはリビングに上着を取りに行ってしまった。なにこれ、私が塚原家に来た意味ないじゃん…。


「名字さんここにいたんだ」

「さっきはごめんね、祐希くんに勝手に切られちゃって…それで話って?」

「祐希と喧嘩したことを聞いてほしかっただけだから、大丈夫だよ」


にこりと微笑んだ悠太くんにそっか、と安心した。祐希くんが戻ってきて、私も一緒に帰ることにした。祐希くんが私の分の上着も持ってきてくれたから、ありがとうとお礼を言って受け取る。


「…まだ変な誤解してるみたいだけど、違うからね。ほんとに違うからね!」


要に念を押しておいたけど、私の目を見てはくれなかった。浅羽兄弟の問題が解決したと思えば今度はこっちか…!

要の方は勝手に時間が解決してくれることを願って、塚原家をあとにした。


微妙な空気の中3人で歩く。祐希くんと悠太くんの仲は完全には元に戻っていないみたいだ。祐希くんが少し気まずそう。


「じゃあ私こっちだから」

「…じゃあね名字さん」

「よいお年を」


悠太くんがそう言ったので、祐希くんも続いてよいお年を、と言ってくれた。そういえば今日は大晦日だったなぁ。双子の喧嘩のせいですっかり忘れてたけど。


「よいお年を。早く仲直りしてよ?」



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