その手をずっと | ナノ
満更でもない
どうしよう、無意識に祐希くんをデートに誘ってしまった。…しかもクリスマス当日に。
昨日の夜にメールで今日の待ち合わせ時間と場所を決めたのはいいものの、映画を見終わったら何すればいいんだろう。解散?いやいや映画だけ見てはいさよならってのも変でしょうよ、クリスマスなんだし。
あと服とかどうしよう。変に気合い入れると何コイツ張り切ってんのって感じだし、でもいつもと同じだとクリスマスなのにパッとしないし……うーーん…
そろそろ出ないと遅刻してしまいそうだったから、せっかくのクリスマスに街で浮かないように、いつもより少しだけ気合いを入れた格好で家を出た。
* * *
「遅くなってごめん…」
「何言ってんの、待ち合わせ時間ちょうどじゃん」
「あ、ほんとだ。祐希くん早いね」
すでに待ち合わせ場所に祐希くんがいたから完全に遅刻かと思いきや、そうではなかったみたいだ。祐希くんが先に来るなんて意外。いつも登校するのはギリギリだし、しかも毎朝悠太くんが起こしてるらしいし。
「よし、じゃあ先に映画観に行こう!」
「うん」
祐希くんが頷いたから、2人で映画館へ向かった。
* * *
「うわー、見事にカップルばっかりだね」
「人酔いしそう…」
この間話題のラブストーリーの映画が公開になった影響も十分にあると思うけど、なにより今日はクリスマスだからカップルがとても多い。とりあえず券を買うために列に並んだ。
前のカップルも後ろのカップルも手を繋いだり腕を組んだりして、とにかくスキンシップが(私からすると)激しい。普通に立ってる私たちが逆に浮いてる気がする…。
祐希くんと話をしているうちに私たちの順番がやってきた。
「本日はカップルまたは夫婦の方には特別に割引をさせていただくことができますが…」
「え、」
私たち、周りからすればカップルに見えるのかな…!でも実際はそうじゃないからなんて断れば…
「じゃあそれで」
「えっ、ゆっ」
「かしこまりました」
驚いて声をあげたら、祐希くんにじろりと睨まれてしまった。
「まったく、危うく割引逃すとこだったじゃん」
「それはそうだけど…」
祐希くんはそういうの気にしないのかな。
「あれ…名前と祐希くん?」
聞きなれた声に振り向くと、友達の香織と、同じクラスの女の子たちがいた。
「橘くんたち見当たらないし、もしかして2人…?」
「そうなの名前ちゃん!?」
周りにいた女の子たちが信じられないといった顔で驚いている。私と祐希くんの仲が良いのは知ってるけど、それは千鶴たちも含めた“みんな”で仲が良いのであって、私たちが2人だけで遊んだりするような仲だとは思われていないみたいだ。
確かに、夏休に浅羽家に行ったのを含めても2人で会うのは今回でまだ2回目だけど…。
「もしかしてあんたたち付き合ってるの?」
「えっ、ちょっと何言ってんのよ香織!」
いきなり何を言い出すのよこの子は!
わたわたしながら祐希くんを見上げたけど、祐希くんの顔はいつもどおり感情の読めない無表情だった。しかも全然焦ったり驚いたりしている様子もないし。
「そんなわけないじゃん!ね、祐希くん」
「………」
「祐希くん…?」
んん?
反応なし?
香織は香織で、どうしたどうした?祐希くん否定しないよ?と笑っていてひどく楽しそうだし、対する女の子たちは驚きっぱなしだ。
「祐希くんは満更でもなかったりして」
香織は私にだけ聞こえるようにそう言い残して、時間だからって映画を見に行ってしまった。
満更でもないって何が?と少し考えたらその意味がわかって、顔に火がついたみたいに一気に熱くなった。私と付き合っても満更でもないって意味だよね…?いや、祐希くん本人が実際に言ったんじゃないんだけど…。
「名字さん顔赤いよ?」
「えっ、そ、そうかな?」
一人でテンパったりして恥ずかしい。そろそろ私たちも時間だから席に座ることにした。
[ 35/68 ][*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]