その手をずっと | ナノ
本当の理由



最近私たちは学食でお昼を食べている。そして最近、祐希くんは食堂のシンデレラ(千鶴命名)と仲が良い。

なんでも祐希くんが集めているパンのシールをシンデレラも集めているらしく、シール欲しさに祐希くんは彼女に近付いたらしい。ゆっきーってば悪い男だよな!と興奮気味の千鶴がそう教えてくれた。

祐希くんってシール目的で女を利用するひどい男なんだね、と言ったら千鶴よりもひどい解釈の仕方ですね、って目も合わせずに適当に返されてしまった。

そして今日も昨日に引き続き、食堂でご飯を食べるべく財布を持って食堂にやって来た。祐希くんはシンデレラと話をしている。学校で私たち以外と祐希くんが話すことはあまりないからなんだか新鮮だ。

そんな2人の姿を見ていると、千鶴が言うようにシール目的のために近付いたわけではないみたいだとわかった。


なんとさっき祐希くんがバスケ部に勧誘されたらしい。みんなには悪いけどいろいろ考えこんでてあんまり話は聞けてなかったけど。注文したオムライスもいつのまにか完食していたし。


「いいじゃんバスケ部。入れば?」

「また名字さんは無責任にそう言う…」

「う、ごめん」


後夜祭のときのことを思い出した。無責任な発言は控えるって誓ったんだった…。


「俺は反対!部活になんか入ったら俺と遊べなくなるじゃん!」

「でもさ、ちょっとは考えてみてもいいんじゃない?運動できるんだし。楽しいかもよ?」


部活に入ってバスケに興味を持てば、シンデレラに対する興味も薄れるかもしれない。そんな卑怯な考えが浮かんだから慌てて消した。私どうかしてる。でも純粋にバスケ部に入ってみるのもいいんじゃないかとも思う。

結局、どう言われても入部する気はないから、と断言して祐希くんはゆっくりとうどんを食べ始めた。



* * *


放課後、用があって食堂の前を通ると、祐希くんが食堂の中に入っていくのが見えた。開きっぱなしのドアからこっそりと中を覗きこむ。

机にうつ伏せになっていたシンデレラが祐希くんの気配に気付いて起き上がった。少し言葉を交わしてまたうつ伏せになる。祐希くんは、シンデレラの跳ねた後ろ髪をバレないように触っていた。

そこまで見てたらもう2人を見たくなくて、私は教室に戻ることにした。さっきの光景が何度も頭の中で流れる。


祐希くんと仲のいい女は私くらいだと思っていた。実際、ついこの間までは本当にそうだった。だけど今は違う。

彼女は大人の女性で、落ち着いていて、さっぱりしていると思う。私だって祐希くんにさっぱりしていて好きだと言われたことがあるけど、彼女にもそれが当てはまる。しかも私よりも話していて楽しそうだし。

やっと気付いた。私は、彼女に祐希くんがとられてしまったみたいで嫌なんだ。嫉妬しているんだ。元々祐希くんは私のものではないのに、今の状況が気に入らない。

こういう女特有のみっともない嫉妬を祐希くんは嫌うはずなのに、この気持ちを抑えることができない。

捨てたい、この感情を。もし祐希くんにこの感情を知られてしまえば、今までの関係が崩れてしまいそうで怖い。ずっと今まで通り、仲良くしていたいのに。


「名字さん」

「…悠太くん」


振り返ると、リュックを背負った悠太くんが立っていた。一緒に帰ろう、と優しい声色で誘われる。


「祐希くんなら食堂にいたよ」

「そう。でも今日は2人で帰らない?」

「2人で…?」


千鶴たちは先に帰ったらしく、教室にも人は残っていなかった。鞄を持って、悠太くんの隣を歩いた。


「どうかした?」

「え?」

「名字さん、最近元気ないみたいだし」

「……そうかな」

「うん。」


私は祐希くんをシンデレラにとられてしまったみたいで嫌だ、ということを悠太くんに正直に話した。こんな汚い感情を悠太くんはよく思わないんだろうな。そう思っていると、悠太くんがぷっと吹き出した。


「えっ、ちょっ、なに!?」

「いや、名字さん可愛いなぁと思って」

「からかわないでよー!」

「要は、祐希がシンデレラのことばっかり考えて、今だっていつもは名字さんといるのにあの人といるから寂しいんでしょ」

「まぁ…違わなくは…ないけど…」


喋り終わるとまた悠太くんが笑い出したから、悠太くんの肩を叩いた。千鶴はよく叩いてるけど、悠太くんを叩いたのは初めてだ…。


「…悠太くんに彼女ができたときはなんとも思わなかったのに」

「あら、急に素直」

「いいでしょ別に」

「あ、前髪になんか付いてるよ」


悠太くんが私の顔を覗き込むようにして前髪を触る。私は目線を下にして取ってもらうのを待った。


「ちょっ、なにしてんの!?」


突然、肩を掴まれて悠太くんと離された。そこには祐希くんがいて、その顔はひどく動揺している。こんな驚いた顔、初めて見たかもしれない。


「名字さんの前髪にゴミが付いてたから取ってただけだよ」

「びっくりした…それにしてもそんなに近付かなくたっていいじゃん」


祐希くんの話が終わっててよかった。あんなの聞かれたらすごく困るし。祐希くんを見ていると、私の視線に気付いてか目が合わさった。


「名字さんも、無防備すぎだよ」


こうやって祐希くんに話しかけられただけで、さっきまでの感情は全部吹き飛んでしまった。単純なやつだなぁと思う。


それからしばらくして、シンデレラが学校を去ってしまったことを知った。祐希くんがシールを集めるのも終わったみたい。

今回の嫉妬の本当の理由は、私にはわからないままだ。



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