その手をずっと | ナノ
色仕掛け
私がまたオニになったから隣にいた千鶴に素早くタッチすると、そのまま私に返そうとしてきたので体を後ろにのけ反って避けた。だけど避けきれなかったみたいで、肩をタッチしようとした千鶴の手は私の鎖骨辺りをタッチすることになってしまった。
「千鶴、今名字さんの…」
「なっ、ゆうたん違うよ!?今のはセーフだって!」
「転校初日にさっそく触ってるからね。それ以外にも何回か…すっかり常習犯だよ」
「ゆっきー!あれは違うって散々言ったじゃん!それに1回も触ったことないよ!!」
「橘千鶴に胸触られたぁー!!!セクハラぁー!!!」
「なっちゃん声デカイよ!!しかもわざわざフルネームで言わないで…!」
慌てた千鶴に口を塞がれた。じゃあねなっちゃん!と言って千鶴は逃げてしまった。遠くから今タッチしたからねー!と声が聞こえてきた。…また私がオニ?
千鶴がそう言った途端、悠太くんは春ちゃんの腕を引っ張って教室に入ってしまった。さっきの授業は体育だったみたいだから教室では男子が着替え中だ。さすがに入れないので諦める。
祐希くんと要を探したけど2人の姿はすでになくて、ぽつーんと私だけが立っている状態になっていた。逃げ足だけは早いなほんと。
すぐ近くに屋上へ続く階段がある。なんとなく誰か屋上に行った気がしたので行ってみると、祐希くんが階段に座っていた。
「祐希くん見ーつけた」
「あ、見つかった」
祐希くんは座っているから自然と私を見上げる形になる。しかも暑いからか何個かシャツのボタンを開けていて、いつもより胸元が晒されていた。上目遣いだし口半開きだし、手を伸ばしたはいいけど祐希くんが色っぽくてタッチするのを躊躇ってしまう。
「………」
「え、名字さん俺にタッチするの」
不安そうな顔で見つめてくる祐希くん。(実際はいつもどおり無表情です)
くそぅ、色仕掛けなんて反則だ!
「そうだよタッチするよ!だって私はオニだし、タッチするのはオニの使命だから…!」
目をつぶって祐希くんのことを見ないようにし(色仕掛け攻撃破れたり!)、ぺしっと頭を軽く叩いてタッチした。よし、仕返しされないうちに早く逃げないと…!
「……っきゃ、」
「ちょっと…」
急いで階段を下りて逃げようとしたら足を踏み外してしまった。冷や汗をかいたのは一瞬の出来事で、私のお腹には祐希くんの左腕が回っていた。後ろに引き寄せられて、やっと自分が助けられたことに気付いた。
「危ないよ名字さん…」
「……死ぬかと思った」
そのまま私のお腹には祐希くんの両腕がまわって、悠太くんにするみたいに顎を肩に乗せてきた。
「死なないでよ。名字さんが死んじゃったら俺…」
祐希くんが離れて私と向かい合わせに立つ。じっと見つめられてなんだか恥ずかしい。見つめ返していると祐希くんの顔がだんだん近付いてきた。
えっ、ちょ、それはいくらなんでもダメだよ!私たち恋人とかじゃないんだから!って言いたいのに声が出ない!どうしよう…どんどん祐希くんが近くに…。ああでも嫌だと思わない自分がいる…!!
「ゆっ、祐希く、もが」
「………タッチ。」
祐希くんの右手で口を塞がれた。顔まっかっかだよ、とだけ言って祐希くんは階段を下りていく。すれ違い様に見た彼の口角は確かに上がっていた。
「浅羽祐希ぃぃぃぃぃ!!!」
* * *
しばらくして教室で、
「名字さんって結構からかい甲斐あるよね」
「ゆっきー楽しそうだね」
「まあね」
そんな会話が繰り広げられていたのを私は知る由もない。
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