その手をずっと | ナノ
名演技?



「名字待てゴラァァァ!」

「なんで私の名前だけ!?」


案の定、休み時間になったとたんに要が追いかけてきた。千鶴と祐希くんもおもしろがって私の前を走っている。でも私のことなんかお構いなしにどんどん距離は開いていく。この裏切り者!

前方に春ちゃんと悠太くんを見つけたのでかくまってもらうことにした。


「春ちゃん助けてぇぇぇ!」

「えっ!?わっ、要くん!」

「やっと追い付いたぞ名字…」

「ひぃ!」


まるで要の顔が般若のようだ。なんで私だけなの!?千鶴と祐希くんも散々笑ってたじゃん!


「お前の顔に1番腹がたったんだよ!」

「そんな理不尽な!」

「オラァ!!」


バッシーン!と大きな音がした。頭を叩かれたから脳みそがぐわんぐわん揺れている気がする。


「はぁー、すっきりした」

「………」

「名前ちゃん!?大丈夫ですか!?」

「うわー、要が名字さん泣かせたー」


いつもより数倍力が強かったから思わず涙が出てしまった。要…さっきのはさすがに痛いよ…。私たちの様子に気付いて、私を置いてさっさと逃げてしまった2人が戻ってきた。


「要っちさいてー!」

「お、お前らだって名字置いて逃たじゃねぇか」

「要が追いかけたりなんかしなければ俺たちは逃げなかったし、名字さんを置いていくこともなかったよ」

「………っ、」


私が泣くのは初めてだったからか、要がおろおろしているのがわかる。ははーん、どう対応したらいいのかわからないんだな。もうすっかり痛くない私は俯きながらほくそ笑んだ。

要にしばかれたから今は私がオニだ。そこで悠太くんにバレないように、できるだけ自然に肩に手を置いた。これでオニは悠太くんだ。


「悠太くん痛いよー…」


タッチしたことがバレないように悠太くんに慰めてもらおうと近付くと、大丈夫?と優しく頭を撫でてくれた。頭撫でられるの好きっていう女の子の気持ちは全然わかんなかったけど、今なら全力でわかる!すごく安心するし顔がニヤける…!

悠太くんは私の顔を覗き込むように少し屈んで、まだ痛い?と優しく声をかけてくれた。悠太くんの優しさが身に染みる。要もこれくらいできれば満点なのになぁ。


「名字さん」

「ん?」

「タッチ」


悠太くんは私の頭を撫でながらそう言った。私がどさくさに紛れてタッチしたのバレてました…?


「しかも途中から嘘泣きだったしね」

「おい名字!」

「でも最初はほんとに泣いてたよ!…だから要は偉そうにしないで」

「あぁ!?」


キッと要を睨むと見事に睨み返されてしまった。眼鏡の奥の鋭い目がこわいです。

それにしても悠太くんには裏切られた気分だ。…実際先に裏切ったのは私だけどね。



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