その手をずっと | ナノ
高2の鬼ごっこ
「………」
先生に用事を頼まれていた(ていうか授業中寝てた罰として提出物を運ばされていた)から、昼休みに遅れて屋上へやってきた。
春ちゃんは茉咲ちゃんに勉強を教えているけど、それ以外の4人はタッチ!と言いながらオニごっこをしている。しかもそれは私が屋上の扉を開いた音にも気付かないくらい白熱していて、とても高校2年生がやっていることとは思えない。双子と千鶴はともかく、学年首位が何やってんの。
呆れすぎて声も出せなくなっていると春ちゃんが私に気付いてくれた。
「あ、名前ちゃん」
「やっほーなっちゃん、!」
千鶴が近付いてきて、わざとらしく私の肩を軽く叩いた。祐希くんと悠太くんはうわ千鶴ったら…と言って手で口元を隠している。
「やっほー千鶴、!」
バシン!と乾いた音がした。それは私が千鶴の背中を叩いた音だ。千鶴が涙目でなっちゃんの怪力女ー!と言って睨んできたのでもう一度叩いた。
「で、なんでこんなことになったの」
「千鶴がいけないんだよ。俺の服で鼻水拭くから」
「だから違うって言ったじゃん!」
え?鼻水?信じられない…。ドン引きした目つきで千鶴を見ると、ほんとに違うからね!?と食い気味に否定された。要っちも何とか言ってやってよー、と言いながら千鶴は要にしれっとタッチをしていた。それに要が気付かないわけがなくて…
「俺が気づかねぇとでも思ったのか!!」
要の怒りが爆発して再びオニごっこが始まってしまった。この子たちはほんとに幼いな…。オニごっこは昼休みが終わって教室に着くまで続いていた。
* * *
さすがに授業中は一時休戦だろうと思い、すっかりオニごっこのことは忘れていたんだけど、要の足下の小窓が開いて悠太くんが授業中にも関わらずタッチしに来た姿を見て思い出した。そういえばオニごっこしてたな、と思ったと同時に、この子たちはこんな幼いこと(くだらないこととも言う)でも全力で取り組むんだったと再確認した。
悠太くんのタッチから逃れようと思わず立ち上がってしまったのを先生に気付かれ、名前を呼ばれた要を後ろの席の2人は声を殺して笑っている。私も我慢できずに吹き出してしまった。
次のオニは要かーと考えていると、要が消しゴムにタッチして思いきりこっちに投げてきた。とっさに避けたから良かったものの、あれ当たったら相当痛いばずだよ!
千鶴が負けじと消しゴムを投げ返す。それを要がまた投げようと立ち上がったところをまた先生に気付かれて当てられてしまったんだけど、授業を聞いてなかった要に答えられるはずがなく、要は恥をかいてしまった。
このときの要の顔は傑作だったので、体を震わせてしばらく笑った。顔をあげるとすごい形相の要とばっちり目が合う。…休み時間になったら逃げなきゃ。真っ先にこの考えが浮かんだ。
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