その手をずっと | ナノ
仲直り



突然祐希くんが怒ってしまった。やってしまった、と思った。自覚はあった。余計なことを言っているって。文化祭だからって少し舞い上がってたのかもしれない。

謝るために、私はとにかく祐希くんを追いかけた。必死に名前を呼んでも全然返事をしてくれない。

歩くのが早い祐希くんを追いかけるのが精一杯だったけど、靴箱に靴を入れるために立ち止まる祐希くんにようやく近付くことができた。逃げられないようにがしりと腕を掴んだ。


「祐希くん、ごめん…」

「……いいよ、もう」

「ほんとにごめん。もうあんなこと言わない。無神経だったよね…」

「俺も八つ当たりしてたから…俺の方こそごめん」


よかった。話してくれたし、許してくれた。とりあえずはひと安心だ。


「…俺、告白される子のほとんどが全く知らない子なんだ。さっきの子だってそう」


祐希くんは少し躊躇いながら、ゆっくりと話し出した。


「でも結局、みんな俺の内面を好きにはなっていないと思う。ていうか知ってすらいないと思う」

「………」

「だから、付き合えばよかったのにって言われたのが、嫌だった」

「…そうだったんだ」


祐希くんの気持ちは痛いほどよくわかった。私だって、過去にそういうことがあったから。だから気持ちはわかるのに、そう言ってしまったさっきの自分が許せない。


「……あと、名字さんにはそういうこと言われたくない。何か嫌だった」

「あ、そうだよね。私に言われたら腹立つよね…」

「…そういうわけじゃ、なくて」

「…?」

「はっきりとはわかんないけど…」

「そっか。気を付けるね」


とりあえずは一件落着だ。後夜祭ももうすぐ終わるし、私たちは教室に戻ることにした。


「さっき俺を待ってる間、あの子と何か話してたの?」

「うーん…まぁちょっとだけ。別にたいした話じゃないけどね」

「今日もう暗いし、帰り送ろうか?…また暗いからって騒がれたらご近所のみなさんに迷惑だし」

「だっ、大丈夫だよ!お化け屋敷じゃあるまいし」

「でもお化け屋敷より危ないから、送ります」

「じゃあ、お願いします…」


祐希くんの優しさに甘えて、その日は家の近くまで送ってもらった。結構暗かったから正直すごく助かった。



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