その手をずっと | ナノ
無神経な彼女
「祐希くんおかえりー」
名字さんの表情が少しだけ曇っている気がしたけど、すぐにいつもの雰囲気に戻った。
名字さんと一緒にいた茶髪の子は、俺の10歩くらい後ろを歩く黒髪の子に近寄ってそのままどこかへ行ってしまった。
「どうだった?」
ずいっと名字さんが近付いてくる。楽しそうにする彼女に少しイラついた。いいことなんて全然なかったし、そのことはもう放っておいてほしい。
「どうって…」
「告白されたんでしょ?」
「まぁ…」
「やっぱり祐希くんはモテるなー。告白なんてされてうらやましい」
うらやましいって……人の気も知らないで。
「で、OKしたの」
「してないよ」
「じゃあ保留?」
「…お断りしました」
「なんで?かわいかったのにもったいない!」
「……名字さんは、見た目がよかったら誰とでも付き合うの」
「そんなことはないけどさ、試しに付き合っちゃえばよかったのに」
「本気で言ってるの、それ」
「え…」
なにそれ、意味わかんない。名字さんは、俺が誰と付き合ってもいいの。誰とでも付き合えばいいと思ってるの。
「ちょっと祐希くんどこ行くの?」
無性にイラついて、今は名字さんとは一緒にいたくなくて、踵を返して校舎へ向かって歩き出した。名字さんは慌てて俺を追いかけてきた。
「待ってってば」
「………」
「祐希く…うわっ!」
俺を引き留めようと腕を引っ張ってきた名字さんを振り払っうと、力が強かったのか彼女は尻餅をついてしまった。罪悪感がしたけど、構わずそのまま歩き出した。
告白なんてされてうらやましい?OKしたの?なんで断ったの?かわいかったのにもったいない?付き合えばよかったのに?
名字さんのセリフが頭の中で繰り返されてますますイラついた。
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