その手をずっと | ナノ
出るんじゃなかった
「祐希くんのことが好きです、私と…付き合ってください!」
やっぱりだ。思った通り予想は的中した。だけどこの子は俺のどこが好きなんだろう。今日初めて見た気がする。俺が覚えてないだけで接触したことがあるかもしれないけど、たぶん俺のことなんて全然知らないんだろうな。知ってるのは名前とか上部のことだけで、内面のことはなにも知らないんだ。
きっと悠太が俺と同じ格好をしたら、平気で悠太のことを祐希くん、だなんて呼ぶんだろう。
高校に入って、告白されることが増えた。それは悠太も同じだった。でも悠太は基本的に優しい。困っている人が居ればすぐに手を差しのべるから、それがきっかけで好きになっている子は多いと思う。
だけど俺は違う。話しかけられても基本無視だし。…だいたい眠いか面倒かのどちらかが理由だけど。そのため他人との接点はほとんどないから、どうしてこんな俺が好かれるのか不思議だ。
まぁ、理由はだいたいわかってるんだけど、それを聞くのは嫌だった。だって答えはわかりきっているし、そんな答えは聞きたくないから。聞いてもただ悲しくなるだけだから。いつもはこんなこと聞いたりしないんだけど…
「どうして、」
「え?」
「俺のどこが好きなの」
「えっと…」
「俺と話したことあったっけ」
「ないです…けど」
「………」
じゃあ俺のどこが好きなの。なんで付き合いたいと思ったの。
自分で言うのも何だけど、背が高くて顔がいいから?運動もやればできるから?
目の前にいる黒髪の子を見ると、黙って泣きそうな顔をしていた。
好きになるのに理由はいらないと思うけど、理由は何かしらあるはずなんだ。でもこの子はきっと、上部の理由で俺を好きになったから言えずにいる。そのことに彼女も気付いたから、こうして泣きそうな顔をしているんだと思う。
「ごめん、変なこと聞いて」
「ううん」
「でも、君とは付き合えない」
「……うん」
「ごめんね」
最後のごめんは、付き合えないことに対してのごめんじゃない。変なこと聞いてごめんってもう一度謝ったんだ。でも答えがわかってて聞いた俺も悪いけど、理由がないか、もしくは動機が不純で答えられない君も悪いと思うよ。
ああ、後夜祭なんか出るんじゃなかった。
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