その手をずっと | ナノ
戸惑い



「やっと出口だ…!」

「おつかれさま」

「うん、おつかれ…あ。」


握っていた手を慌てて離した。おばけが怖…じゃなくて暗いのが怖いって子供じゃないんだから…情けない。そんな私に文句ひとつ言わなかった祐希くんに感謝だ。


「ごめんね、手…ありがとう」

「いいえ」

「あと、くれぐれもこのことは要には…」

「言わないよ。俺口固いから」

「助かります…!」


がばりと頭を下げた。祐希くんから後光が差してる気がする!お化け屋敷の中でも、いつもの祐希くんなら私のこと面白がって置いていきそうだけど、そんなことは全然なくてすごく優しかった。

悠太くんは常に優しいけど祐希くんはたまに優しい。そのたまにがぐっとくるというか…心をがしっと鷲掴みにされるというか……


「なっちゃん、ゆっきー!ゆうたんたちが店番の時間らしいから見に行こうよ!」

「んー行く」

「………」


きゅんとした…って言った方がしっくりくるのかも。


「おーい、なっちゃん?」

「あっ、うん!今行く」


…何考えてるんだろう私。



* * *


「ゆうたーん!春ちゃーん!」

「うわ、2人とも似合ってるね!」

「ゆうたきれー」


春は赤ずきん、悠太は白雪姫の格好をしている。そういえば、男女逆の衣装を着るって言ってたっけ。


「ちょっと悠太くん美しすぎるよ!普通に女の子がその格好してもそこまで似合うかどうか…!」

「ありがとう。名字さんも似合ってるよ」

「ほんとー?あっ!一緒に写真撮ってもらってもいい?」

「いいよ」

「祐希くん、写真撮ってー」


カメラモードにした名字さんの携帯が手渡された。悠太の隣に並んで嬉しそうにニコニコ笑う名字さんにムカついた。さっきまで俺にくっついてきたくせに、悠太がいればそっちの方がいいんだ。


「はいはい、じゃあ撮りますよー」


なんか言い方がすごく適当になってしまった気がする。まぁでも元々こんな感じか。

ピースをして笑う名字さんと悠太のツーショットを渋々撮る。画面越しに映る2人がひどく遠く感じた。撮れた写真を見ると2人はお似合いで、それが少しだけ辛い。

携帯の画面を見ていると、ひょいっと取り上げられてしまった。見上げると悠太がそれを持っている。


「祐希と名字さんも並んで。俺が撮ったげる」

「俺はいいよ」

「せっかく同じ作品の格好してるんだから、撮った方がいいよ。ね、名字さん」

「そういえばそうだね!撮ろうよ祐希くん」


さっきまではムカついてたのに、笑って俺の腕を引く名字さんを見たらそんな感情はどこかへいってしまった。髪型を整える彼女の髪をぐしゃぐしゃにしてしまいたかったけど、怒られるのが目に見えていたからやめた。名字さんが隣にいると心が暖かい。

だけど、パシャリとシャッター音が鳴った途端に離れていく彼女の背中を見ると、急に心が冷えていくのがわかった。悠太のところになんか行かず、ずっと俺の隣に居ればいいのに。


「よく撮れてるよー!あとで送るね」


でもその笑顔を見れば、そんな黒い感情はすぐにどこかへ行ってしまった。なんなんだろう。自分が自分で、よくわからない。



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