その手をずっと | ナノ
ようやくアドレス交換
結局、千鶴と祐希くんがクラスの手伝いをほとんどすることなく文化祭の準備はおわり、待ちに待った文化祭が始まった。
1日目は千鶴たちと6人で校内を回った。高校生クイズで優勝して飴もらったり、チョコバナナ食べたり、女王様が付けてそうな眼鏡かけて仮面舞踏会という名の出会いの場に参加したり。しっかり文化祭を楽しんだ。
そして今日は2日目。お化け屋敷の準備を始めたのに要がいないから千鶴たちが呼びに行ったんだけど、要に追いかけられながら帰ってきた。
「まーた2人は要怒らせたの?」
「見てこれ。要のレアショット」
「うわ、だらしない顔。口半開きだし」
「そういうお前はきりっとした顔で口閉じたまま寝てるって言うのかよ!」
「え。そんなこと一言も言ってないですけど。そんなのできるわけないじゃん」
「………っ!!」
要は口角をヒクヒクさせ、ものすごい形相で最大限に怒っている。私に言い返せないからやり場のない怒りに震えているみたい。携帯画面の中の気の抜けた顔とは大違いだ。
「っとりあえず!」
「痛ぁっ!叩かないでよ!」
「祐希はその写メ消せ」
「………わかったよ」
要にギロリと睨まれ、祐希くんは渋々それに従った。めずらしい。いつもならどんなに怒られてもひらりとかわしてみせるのに。
祐希くんがいじる携帯画面を要が横から覗き込む。ほどなくして要が満足げに笑ったから消しちゃったんだなと思った。すっきりした顔の要はお化け屋敷の準備を手伝いに行ってしまった。
「名字さん名字さん」
「なに?祐希くん」
「ちょっと来て」
「え?」
幸い要に見つかることはなく、祐希くんに連れられて教室を出た。見つかったら見つかったで怒られるのは決まっていたから正直ほっとした。屋上へ続く階段なら人は通らないし、そこに座ることにした。
「あのですね」
「うん?」
「さっき要の写メを送ろうとしたら、名字さんのアドレスを知らないことに気付いて」
「あ、そういえば知らないね。じゃあ「あの、」
「…はい」
祐希くんは太ももの上で手をぎゅっと握って拳を作った。
「名字さんのアドレス、教えてもらえませんか」
「はい…いいですよ」
あまりに真剣な顔をして言うもんだから、つられて敬語で返事をしてしまった。
「じゃあ赤外線…」
「あっ、はいはい、ちょっと待って」
慌てて赤外線の画面にして、次は私が送るね、などとやり取りをしてようやくお互いの連絡先を知ることができた。夏休み以外はほぼ祐希くんといたし、仲良くしてたのに半年経たないと連絡先は入手できないのか。まぁ、私から連絡先聞かなかったのも理由の1つだけどね。
祐希くんを好きな女の子たち、彼は相当手強いみたいだよ。
「じゃあ要の写真も…」
「えっ、消したんじゃなかったの?」
「そんなわけないでしょ。SDカードにコピー済みです」
「おおっ。さすが!送って送ってー」
「………やっぱり、やめときます」
「なんで!?」
別に要には言わないよ!?大丈夫、私口固いし!それとも、要のレアショットを他人に送るのが惜しくなったとか…?
「初めてのメールが要の写メを送るためとか嫌なんで」
「あー、確かに」
「またメールします。そのときに要のも送るんで…」
「ここにいたのかお前ら!!」
「ひぃっ!びっくりした…要かぁ」
「要かぁじゃねぇよ!お前らさっさと着替えろ。もうすぐ俺らの順番だろうが」
「はいはい今行きますよ」
「要もさっさと着替えなよ〜?」
「お前最近小ザル以上にイラッとするときあんな。いいから早く来い」
そんなわけで私と祐希くんは要に連行されていきました。いよいよ文化祭2日目スタートです。
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