その手をずっと | ナノ
エコトレイン
いよいよ待ちに待った文化祭はついに明日だ。最近は文化祭の準備に大忙しだけど、当日を楽しいものにするためにクラスが一丸となって頑張っている。
…そう、2人を除いては。
「……なに作ってんの」
「電車みたいなの!こう、ダンボールを紐で繋いで、引っ張れるようにしようと思って」
「そんなのお化け屋敷にはいらないでしょーが。さっき頼んだ仕事は?」
「これ代わりにお願い!ってゆっきーが言ってたよって言ったら女の子たちが快く代わってくれた」
「あー、もう…」
「まぁまぁ名字さん。もうすぐこれ完成するから元気出して」
「完成させなくていい」
文化祭の準備の手伝いさせてるときより、2人ともすごく生き生きしてるよ…。こんなの作ってどうするの。結局は飽きてゴミにするんでしょ、どうせ…
友達に、千鶴は頼んだことの意味を理解してくれないし、祐希くんには話しかけにくいから私が代わりに指示してって頼まれたんだけど、引き受けるんじゃなかった。
普段私もこっち側に混ざって騒いだりするけど、止める側の3人は大変だったんだな…。相手の立場になって初めてわかった。走馬灯のように千鶴たちをなだめる春ちゃんや悠太くん、怒鳴っている要の姿が浮かんだ。
「できた!なっちゃん最初に乗せたげる!」
「やだよ…」
めんどくさいし…
「名字さん、思いっきり顔に出てます。めんどくさいって」
結局、嫌だって言ったのに無理矢理乗せられてしまった。ていうか、めんどくさいだけじゃなくて、めちゃくちゃ恥ずかしいし、私重いから止めてほしいんだけど…
「しゅっぱーつ!」
千鶴が勢いよく走り出し、私を乗せたダンボールはぐんぐん進む。時折ぶつかりそうになった人にすみません、と謝る。周りの人の視線が痛い。恥ずかしい。
「千鶴もうとめ……っぎゃあああ!!」
「ごめんなっちゃん…!」
曲がり角を曲がりきれず、遠心力で勢いよく倒れてしまった。最後だけ物凄いスリルが…!
「2人とも、気が済んだらそろそろ教室に「あ、ゆうたんと春ちゃんだ!」
「ゆーたー」
祐希くんもちゃっかり着いてきていた。そうだよね、千鶴が遊んでるのを知りながら君だけが手伝うわけないよね…
「見て見て!エコトレイン!」
「俺たちが作ったんだよ」
「…そう、クラスの出し物に使うはずだったダンボールでね」
「名前ちゃん、なんだか疲れてるみたいですけど、大丈夫ですか?」
「うん…大丈夫。私職員室に用があるから、行くね」
一応、千鶴と祐希くんにはあとでクラスのも手伝ってよ、と念を押しておいたけど、まぁ無駄だろうな。私には要みたいに怒鳴る気力はエコトレインに乗ったから(ていうか倒れたから)もうないし、今日はあの2人には着いていけない…
後ろから千鶴の騒がしい声が聞こえてきた。私からはまだ離れてるけど、春ちゃんと悠太くんをエコトレインに乗せている。
もう疲れたからしばらく関わらないようにしよう。前を向いて再び職員室を目指して歩いていると、祐希くんたちが追い付いてきた。祐希くんが紐を引き、悠太くんがダンボールの底を突き抜けさせ、それを持って2人は走っている。
「…恥ずかしくないの?」
「え?全然」
「祐希くんってハート強いんだね」
「名字さんも乗ります?今ならタダで職員室まで連れていきますよ」
「“今なら”って…普段はお金とるんですか。これの経費は全部クラスのものなのに」
「まぁ細かいことはお気になさらず」
「祐希、前と後ろ代わろっか」
「うん」
紐を引く先頭が悠太くんで、その次が祐希くんになった。早く、と促してくるので仕方なく祐希くんの後ろのダンボールの中に入った。
「では出発しまーす」
「はーい」
「はー……いぃ!?」
早い、早すぎるよ!忘れてた、この人たち走るの早いんだった…!
「ちょっと名字さん、後ろもたれ掛からないでよ。重いから」
「好きでもたれ掛かってるんじゃ…!」
「あ」
「ふぐっ!」
「いたっ…」
「わっ」
悠太くんが声を漏らして急に止まったから、勢いよく祐希くんの背中にぶつかってしまった。変な声も出ちゃったし。私がぶつかったのに耐えきれなかったのか祐希くんが悠太くんにぶつかり、ドミノ倒しのように3人重なって倒れてしまった。
「悠太、どうしたの急に…」
「要がいたから…」
見上げると、たいそうお怒りになられた要さまが…
「…祐希、名字」
「え、ちょっと、私は違っ」
「お前らさっさと教室戻って手伝えー!この忙しいときに何やってんだよ!!」
「私は被害者なのに!」
要に頭を思いきりしばかれる。ぐわん、と脳が揺れた気がした。
あとからやって来た千鶴もやっぱり要に怒られていた。ちなみにエコトレインは解体されてしまいましたとさ。でもちゃんと再利用されてたし、エコだねほんと。
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