その手をずっと | ナノ
俺は好き



「わー、春ちゃん髪切ったんだ!」

「俺と悠太が切ったんだよ」

「えぇっ…。…でもまぁ、成功してほんとによかったね。似合ってるよ」

「ありがとうございます!」

「ちょっと、さっきのえぇってどういうこと」


春ちゃんは長かった髪をばっさりと切っていた。本人は短くなったから朝のドライヤーが大変だと言ってるけど、似合ってるし今の方が好きかもしれない。


「名前ちゃんっていつも髪きれいにしてますよね。パーマですか?」

「ううん。自分で巻いてるの」

「そうなんですかぁ」


にこにこ笑う春ちゃん。かわいい。


「僕トイレ行ってきますね」

「いってらっしゃーい。っうわ!」


春ちゃんに手を振っていると、祐希くんに髪を後ろに引っ張られて頭が傾いた。頭皮がじんじん痛い…抜けたらどうすんの!


「痛いよ!」

「これ自分でやってたんだ」

「うん。毎朝ね!」

「髪とかしてきてないだけかと思ってた」

「え」

「じょーだんです」


びっくりした。私の毎朝の苦労がまったくの無駄なのかと思った。祐希くん嘘つくときも表情が変わらないから見破れないよ。

祐希くんはそのまま私の髪を指でとかし出した。なんだかくすぐったい。


「とれたら嫌だからあんまり触んないでよ」

「そうしてるんです」

「ちょっと、やめてよー」

「前は巻いてなかったよね」

「うん。1年のときだけどね。…ていうか私のこと知ってたんだ」


私は学年でかなり有名らしい祐希くんのことは知らなかったけど、それに引き換え全然そうじゃない私のことを祐希くんは知ってたんだ。


「一時期みんなで要との仲を疑ってましたから」

「えっ、うそ、まじで」

「まじです」


知らなかった。要と私がそんな風に思われてたなんて、今じゃあり得なさすぎてさぶいぼものだよ。


「1年のときみたいな髪型で来ればいいのに」

「そう…?」

「うん。あっちのが俺は好き」


好き。


「えっ、あー、そうなんだ。へー…祐希くんはストレート派かぁ…」


好きなのは私の髪型のことなのにどきりとした。なんだか恥ずかしいけど、祐希くんの優しく髪を触る手が心地よくて、春ちゃんが帰ってくるまでそのまま身を任せていた。

もう巻くのやめちゃおうかな。



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