その手をずっと | ナノ
きっと大丈夫
「悠太のふられんぼう将軍ー」
ベットにもたれて漫画を読む祐希がいきなりそう言ってきた。机に向かって予習をしていた俺はくるりとイスごと振り返る。
「それ今日の昼休みも言ってきたじゃん。もうからかわないでよね」
「言ったのは千鶴だけどねー。でも名字さんは、明日からしばらくこのネタで千鶴と一緒にからかうつもりだよ」
「えー…祐希、とめてよね」
「それはどうかな」
「………」
そうだよね、祐希はとめるどころか2人に加わって俺をからかう側にまわるよね。今日の昼休みも散々そのことをネタにからかってきたのに明日からも続くのか。そう考えると頭痛がした。
「………」
「祐希、どうしたの」
「悠太はさ、なんで名字さんと連絡先交換したの」
急に祐希の声が小さくなった。俺の形勢逆転かな?名字さんのことになると祐希は弱い。
「なんでって、仲良くなったら自然と交換するでしょ」
「ふーん」
「祐希だって……あれ?まさか」
「そうです。そのまさかです」
驚いた。祐希は名字さんの連絡先を知らないのか。同じクラスだし、俺よりもずっと仲が良いから交換してるものだと思い込んでいたのに。だからうちに誘ったときも俺の携帯を使ってたんだ。
「悠太から聞いたの?」
「いや…みんなでいるときに、千鶴が名字さんに交換しようって言ったから、それに混じって。春と要もその時交換してたよ」
「いつの話?」
「いつだったかなぁ…5月の終わり頃かも。たぶん祐希そのとき松下くんに呼ばれてていなかったよ」
「ふーん。そーなんだ…」
「祐希も聞けばいいのに」
そう言うと、祐希は読んでた漫画で顔を隠してしまった。下手すると拗ねてしまうから言葉には気を付けなきゃいけないなぁ。
「だって今までずっと名字さんが聞いてこなかったのは、俺のが必要じゃなかったからでしょ」
「そんなことないよ。きっと名字さんもタイミングがわからなくなってるんだよ」
「そうかなぁ」
「うん。きっとそうだよ。普通に教えてくれるよ。だって祐希たち仲良いし」
「…わかった。聞いてみる」
少しだけ元気になった祐希はお風呂に行ってしまった。祐希の名字さんへの気持ちはどう変わるのだろうか。とりあえず今は恋愛感情はないと思うけど、これからどうなるかはわからない。
女の子に連絡先を聞くなんてたぶん祐希は初めてだから、心の中でエールを送った。
名字さんはきっと断ったりなんかしないから、大丈夫だよ。
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