その手をずっと | ナノ
いつか私も
たまに千鶴たちと遊んだり、久しぶりに中学の友達と遊んだり、お母さんの実家に遊びに行ったりして、見事に遊び一色になった私の高2の夏休み。8月の終わりには要の家に集まって、宿題も必死におわらせた。まだまだむし暑い中、新学期スタートです。
宿題も提出日までになんとか出し終えて、職員室の前で私と千鶴と祐希くんの3人は胸をなでおろした。
「あー、よかったー。宿題間に合って」
「よっしゃー!これで自由だぜ!なっちゃん帰ろー!」
「あ、悠太だ」
祐希くんが指差した方を見ると、悠太くんが一人で廊下を歩いていた。教室やトイレに向かっているようではなかったから不思議に思いつつ、合流した要を加えた4人でこっそりとあとをつけると、悠太くんは体育館裏に用があるみたいだった。
「こんなところでどうしたんだろうね?…まさか、悠太くんはこわい人たちに呼び出されてて、ボコボコにされちゃうんじゃ…」
「まさかー。名字さんじゃあるまいし」
「……祐希くん?」
「とりあえず気に入らない奴は体育館裏に呼び出してボコボコにした上でカツアゲですよね」
「え、私そっち側?」
悠太くんを見ると、いつのまにか向かいに黒髪の女の子が立っていた。その奥には私たちと同じように2人を見る女の子たちがいる。黒髪の子の友達なのかな。
「好きです、私と付き合ってください!」
えぇぇぇ!!!
「こっ、告白!悠太くん告白されてるよ!?」
「声デケェよ名字!!」
「いたっ!要の方が大きいよ!」
ばしん、と思い切り要に頭を叩かれる。痛い。要も動揺してるのか、いつも以上に加減してくれなかった。
祐希くんは祐希くんで「そんなの誰が許可しますか」とブラコン炸裂してるし、千鶴は千鶴でこういうの好きだからサルみたいに(サル以上に?)騒いでいる。
あとからやって来た事情を知らない春ちゃんを静かにさせているうちに悠太くんの方は話が終わったみたいで、悠太くんがこっちに近付いてきた。慌てて千鶴が声をあげる。
「バックバックバック!!」
「えっ、どっち行ったらいい!?右?左?」
「どっちでもいいから早く行けよ!!」
「痛い!また要が叩いた!」
とりあえずその場はなんとか悠太くんにはバレずに逃げることが(たぶん)できた。
* * *
次の日の放課後、用事があると言った悠太くんをみんなで尾行したら予想的中!やっぱり用事は放課後デートのことだったみたいだ。
校門で待っていた女の子に駆け寄って、一言二言交わしてから2人で歩いていく。バレないように私たち5人はあとをつけた。要、千鶴、春ちゃんが前を歩き、私と祐希くんは2人でその後ろを歩く。
「…ってことは、悠太くん告白OKしたんだね」
「みたいだね」
「水くさいなー。言ってくれれば…」
「………」
「四六時中からかってあげたのに」
「名字さん。」
「冗談だってば」
ほんとに祐希くんって悠太くんのこと好きだねぇ。
「…いいなあ。私も彼氏ほしい」
「名字さん、いたことあるの?」
「あるよ」
「………」
「祐希くんは?」
「ない」
「えっ、ウソ!?信じらんない…」
性格はともかく(子供っぽいところもあるけどわりと優しいし)、見た目がいいから周りに騒がれてるのに…
「もしかして男が「名字さん、」
「ごめんなさい冗談です…」
それにしても本当に意外だ。でもこれじゃあ女の子に興味がないと思われても不思議じゃないよね。
「告白されたことはあるんでしょ?」
「うん」
「だったら何で?」
「好きじゃなかったし、好きになる可能性もないと思ったから」
「そっか…」
「あ、悠太たち本屋に入ったから千鶴たちも入ってったよ。追いかけないと」
「う、うん」
「…名字さんは、悠太があの人と付き合ったこと、どう思ってる?」
うーん……そりゃあ、言ってくれなかったのは寂しいけど…
「お似合いだと思うし、祝福する。でも言ってくれなかったお礼はきっちりしなきゃだけど」
「じゃあ、悠太に彼女ができて嫌だとか…」
「ないない。むしろ嬉しいよ」
「………そっか」
祐希くんはほっとしたような、嬉しそうな、そんな顔をしていた。
「ちょっと、なに嬉しそうにしてんの」
「別にそんなことは」
「私が悠太くんと彼女さんのこと認めたから嬉しいんでしょー。ほんとブラコンなんだから」
「名字さんが認めても俺は認めてないけどね」
「そこは胸を張っていばるとこじゃないよ…」
お似合いな悠太くんたちを見て、私もいつか好きな人ができたら放課後デートしたいなぁと思った。
ちょっと寂しい気もするけど、祐希くんにも本当に好きな人ができるといいね。
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