その手をずっと | ナノ
私だけ



今この部屋にはテレビの音と、祐希くんが動かしているゲームのコントローラーの音しか聞こえない。

…あー、なんだか急に緊張してきた。学校で2人になることはあるけど、ここは祐希くんの家だし、昨日のこともあるからなぁ…

とりあえず落ち着こうとして、部屋をきょろきょろと見回した。


「うわぁっ!」


ふと前を見ると祐希くんのドアップがあって思わず大きな声を出してしまった。びっくりした…。ゲームしてたんじゃなかったの!?


「名字さんもする?」

「なっ、なにを?」

「ゲーム」

「わ、私はいいよ。見てる方がおもしろいから」

「そんなのやってみなきゃわかんないでしょ」


ほら、とコントローラーを押し付けられて、仕方なく受け取る。ゲームなんていつぶりだろう。


「まずこれ押して」

「う、うん…?」

「違う違う、こっち」

「あ、うん」

「そうそう」


私がすぐにわからないから、自然と祐希くんが近づいてくる。


「そしたら次はこれ」

「え、どれ?」

「これ」


私の指をもって、ボタンの場所まで誘導してくれた。あ、祐希くんの指きれいだな。

そろりと祐希くんの顔を見ると、顔同士が触れそうなくらい近くにあってすごくびっりした。慌てて距離をとると、祐希くんが不思議そうに尋ねてくる。


「どうしたの?」


もしかして、自覚なし?


「…名字さん?」


意識してるのは私だけ?


「…ごめん、なんでもない」

「………」


祐希くんの表情が暗くなる。気分悪くさせちゃったかな。


「やっぱりつまらない?」

「!、そんなことは、ないけど…やっぱり慣れてないから…」

「そっか」


そう言って祐希くんはゲームを片付けだした。えっ、もしかしなくても私のせい?


「いいよ片付けなくて。祐希くんは続けて?」

「だって、見てるだけもつまらないでしょ」

「そんなこと…」

「いいよ。俺はもう気がすんだし」


そう言って片付けを再開した祐希くん。これが終わったらすることなくなるよね。どうしよう…


「あ、祐希くんの部屋…見てみたいなーなんて…」

「いーよ。悠太と一緒だけど」

「一緒…?」


案内された部屋の中に入ると、二段ベッドと隣同士に並べられた机と本棚があった。


「君らほんとに家でもべったりなんだね…」

「いやいやそんな」

「…照れなくていいよ」


きちんと整頓されてる机とそうでない机がある。たぶん祐希くんのはそうでない方なんだろうな。


「仲が良くて一緒にいる分、生まれたときからずっとべったりなんだろうね、君らは」

「嫉妬しないでください…。これだから女はこわいよ」

「してませんー。…あ、ねぇ、小さいときの写真とかないの?」

「あるけど…」

「見せて見せて!」


祐希くんはクローゼットの中をあさり始めた。ほどなくして一冊のアルバムを手渡される。表紙には“陽だまり幼稚園”と書いてあった。


「か、かわいい…!!」

「そう…?」

「わー!悠太くんと祐希くん同じ顔だ!」

「今もだけどね」

「双子パワー恐るべし。かわいいなぁ…」


うっとりと写真を眺めていると、アルバムを祐希くんに奪われてしまった。


「もうおわりです」

「最後まで見せてよー」

「名字さん見るの遅いから絶対時間かかる」

「じゃあ貸してよ!明日にでも返しに来るから」

「嫌です」

「なんでよ!」

「…いくら昔の自分でも、かわいいとか言われるの嫌なんで」

「いいじゃん本当のことなんだから〜」


どうしても見たいから無理にでも奪おうとしたけど、やっぱり祐希くんに敵うことはなく。隙をつかれてアルバムで頭を叩かれた。重い分、痛みも重い…

すると、コンコンとノック音がして扉が開いた。


「祐希くん、悠太くん知らない?……あら、」

「あっ、おじゃましてます…」

「こんにちは。ゆっくりしてってねー」


お母さんかな。若い!かわいい!


「悠太ちょっと出かけるって」

「あらそう。お買い物頼もうかと思ってたんだけど…」

「じゃあ祐希くんが代わりに行ってあげたら?私もう帰るし」

「あらーいいのよ?ゆっくりしてって?」

「いえ、長居しましたので!」


おじゃましました、と挨拶して祐希くんと一緒に家を出た。祐希くんはお母さんからお金をもらっていて、その光景がなんだかおもしろい。


「祐希くん、“はじめてのおつかい”がんばってねー」

「別に初めてじゃないよ」

「そうなんだ。意外だね」

「普段は大体悠太が行ってるんだけどね。誰かさんのせいで俺が行くはめになっちゃったし」

「たまには悠太くんばっかりじゃなくて、祐希くんもお母さん手伝ってあげなよ?」

「名字さんが気を利かせなきゃ俺は家でいられたのに……」

「な、なによその目は」

「連帯責任です」

「え!?ちょっと、私の家あっちなんだけど」

「それじゃあ行きましょうか」


結局、祐希くんのおつかいに付き合わされてしまったのでした。


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