その手をずっと | ナノ
初めての浅羽家



あー、夏休みってひまだー!早起きしなくていいし授業もないけど、学校がないとひまなんだなー。

あー、誰か連絡してくれないかなー。この際千鶴でもいいから…。と思っていたところにタイミングよくメールがきた。画面には“浅羽悠太”と表示されている。

『言いそびれちゃったけど、昨日はごめんね。怒ってる?』

昨日は6人で夏祭りに行ってきた。結局あのあと祐希くんと一緒にみんなと合流したんだけど、祐希くんがずっと私の隣にいたからあれから悠太くんとは話してない。

『怒ってないよー。私こそなんかごめんね。代わりといってはなんですが、暇すぎて困ってるので助けてください』

送信、っと。

ふぅ、とため息をついて携帯を床に置いてすぐに携帯が鳴った。今度は着信みたい。…あ、悠太くんだ。


「もしも」

『どうもー』

「…祐希くんか」

『すみませんね悠太じゃなくて』

「どうしたの?」

『どうしたもこうしたも、名字さんが暇だから助けてってメールしてきたんでしょ、悠太に』

「あ、そうだった」

『……暇ならうち来ませんか』

「は…えぇ?」


そういうわけで、浅羽家にお呼ばれすることになりました。



* * *


道はよくわからなかったけど、祐希くんに電話で教えてもらいながらなんとか到着した。玄関のチャイムを鳴らすと、すぐに「はーい」と悠太くんの声が聞こえた。


「いらっしゃい」

「どうも…」


悠太くんに出迎えられて、玄関に足を踏み入れた。


「さっきもメールで言ったけど、ほんとにごめんね。気悪くした?」

「いやっ、全然!それより、かばってくれて嬉しかったです」

「そう」


悠太くんは優しく微笑んでくれた。こういう時、祐希くんとは少し違うなぁと実感する。さぁ入って、と促されたからサンダルを脱いでから揃えていると、「あ、女の子みたいなことしてる」って言われたので小突いておいた。


「よくぞいらっしゃいました」

「そう思うなら私の顔くらい見ればどうですか」


私を家に呼んでくれた張本人は、テレビに向かってコントローラーをいじっている。ゲームしてるんですか。


「適当に座ってて。お茶でいい?」

「さすが悠太くん。お願いしまーす」


ソファに座って一息つく。テレビの画面をボーッと眺めた。祐希くんが刀とか魔法をつかって敵を倒している。もちろんゲームの中でだけど。あ、レベル上がった。

家には私たち3人以外は誰もいないみたいで、私が一番乗りなのかな。千鶴はともかく、春ちゃんが遅れるなんて珍しい…


「春ちゃんたち遅いね」

「…今日他の人たちは来ないよ」


ゲームをしながら祐希くんが答えた。え、誰も来ないの?


「なんで?」

「だって誘ってないから」

「誘わ…ないの?」

「うん」


なんで?


「祐希、ちょっと出てくるね」

「んー」

「じゃあ名字さん、ごゆっくり」

「え、」


私にお茶の入ったコップを手渡してから、悠太くんは家から出ていってしまった。玄関のドアが閉まる音が部屋中に大きく響いた気がした。


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