その手をずっと | ナノ
恥ずかしくて、嬉しくて
さっきのことを思い出すと無性にムカついたから、あからさまに嫌そうな顔をして知らんぷりしてやった。
「やっぱりやめといてよかったぜ。よく見りゃたいしたことねーし」
そのたいしたことねー奴に必死に絡んできてたのはどこのどいつだ!
「しかも5人のうち4人が男かよ。たいしたことねー上に尻軽だな」
残念でしたー。春ちゃんは男の子なので5人が男っていうのが正解ですー。
ていうかこの短時間に尻軽2回も言われてしまった…。私、まじで尻軽なのかな。
何も言い返せずに落ち込んでいると、悠太くんが私の前に立った。
「すいません」
「あ?なんだよお前」
「この子、俺の彼女なんで、気安く口説かないでもらえますか」
ぐいっと悠太くんに肩を引き寄せられる。ち、近い!近いよ!しかも彼女!?一体なにがどうなって…
「…しかもこの子がたいしたことないなんて、見る目ないんですね」
「は!?」
「かわいいでしょ、うちの子。」
耳元で囁かれるように言われたから、一気に顔が熱くなる。絶対顔まっかだ…!
ちっ、男いたのかよ!と吐き捨てて2人は人混みの中に消えていった。
…恥ずかしい。顔から湯気が出そう。
「………」
「名字さん?」
「……ゆ、」
「ん?」
「悠太くんのバカぁぁぁぁ!」
「ちょっ、なっちゃんー!!」
要のため息と春ちゃんの焦った声が聞こえたけど、構わず走り出した。
* * *
「はぁ、はぁ…つかれた」
人気の少ないところまで走って逃げてきた。だって、こんな顔みんなに見せられない。きっと真っ赤だ。
「名字さん」
「ぎゃー!!…あ、祐希くんか」
「…悠太かと思った?」
「ごめん、一瞬だけ」
誰もいないと思っていたのに急に話しかけられて過敏に反応してしまった。ビビったわけじゃないからね、決して。
ていうか祐希くん追い付くの早いよ!浴衣とはいえ結構急いだつもりなのに。
「悠太のこと怒ってる?」
「いや、怒ったとかじゃないの。ただ単に恥ずかしくて」
「あー…まぁあんなこと言われたらね」
「でしょ!?もう恥ずかしくて死ぬかと思った…」
「…でも嬉しかったんでしょ」
「はい?」
な、なにを言ってるのこの人は。
「そんな顔してる」
「してないよー」
「してる」
「してない」
「してるって」
「してないってば」
え、なに?なんか怒ってる?
祐希くんは黙り込んでしまった。
「………」
「……なに怒ってるのよ」
「怒ってない」
「怒ってるじゃん」
「怒ってないです」
「怒ってる!」
「…怒ってるの名字さんじゃん」
「誰のせいよ」
「………俺?」
「あんたよ!」
なにこれ!怒ってるなら怒ってるではっきりすればいいじゃない。
「……えーと…名字さん」
「なによ」
むすっとした顔で祐希くんに返事をする。祐希くんは目線をあちこちに泳がせてから小さな声で喋りだした。
「似合ってます、浴衣」
「へ…」
「…かわいいよ。……別に悠太の真似とかじゃないから」
彼は私をどうしたいんでしょうか。
一瞬、いつものノリでからかわれてるだけなのかと思ったけど、そういうんじゃないらしい。
さっきの悠太くんのときよりも、何倍も恥ずかしくて、嬉しくて、どきどきした。
私の3歩先を歩き出した彼に小走りで追い付いた。横に並ぶと、お団子を片手で握られたから慌てて声をあげる。
「潰さないでよ!」
「そこんとこは気をつかってます」
「気をつかってるなら触らないでくださいー」
「いいじゃん」
「よくないですー」
「あ、りんご飴。さっき褒めてあげたんだから代わりに奢ってよ」
「なんでよ。あんた見返りのためにさっき褒めたの…?」
結局すぐにいつもどおり調子に乗り出したし。あー、どきどきして損した!
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