その手をずっと | ナノ
もう一人の浅羽くん
「やったー!お昼ー!」
授業が終わり、ざわざわと騒がしくなった教室で橘くんの声が響いた。この人はエネルギー切れとかないのかな。
さっきの授業中は3人で手紙のやり取りはやらなかったし、眠くなくて起きてたから暇だったなぁ。
「名字さんもよかったら一緒に弁当食べよー!」
「おじゃまじゃなければ」
「千鶴の方がおじゃまだから全然大丈夫だよ」
「なんだとーっ!?」
鞄の中からお弁当を取り出す。2人が席を立ったので首をかしげた。私の気持ちを読み取ったのか、浅羽くんが説明してくれる。
「俺たち、要たちといつも屋上で食べてるんだよ」
「そうなんだ」
塚原くんも一緒なんだ。いや、嫌って訳ではないんだけどね。
「千鶴、今日も松岡さん来るよ」
「もうそれは言わないでよ!」
へー、女の子も一緒に食べてるんだ。浅羽くんが女の子とお弁当…。もしかして。
「松岡さんって、誰かの彼女だったり?」
「だとしたら千鶴だろうね」
「だからやめてってば!」
そんなこんなで、今日のお昼は浅羽くんたちとご一緒させてもらうことになった。ギャーギャー騒ぐ橘くんはやっぱりうるさい。
「俺トイレ行ってくるから先行ってて」
「じゃあここで名字さんと待ってるよ」
「そう。じゃあ待ってて」
後ろにイスを向けて、橘くんと向かい合わせで喋る。始終元気100%の彼に押されつつも談笑していたら、彼は突然あ!と叫んでどこかに行ってしまった。ほんとに落ち着きがない。入れ替わりに浅羽くんが帰ってきた。トイレちょっと遠いのに早いね。
「おかえりー」
「…え?」
「トイレ遠いのに早かったねー。走ってきたの?だから前髪がセンター分けになってるのか。…あ、わざといじってるならごめんね」
「………」
「…あれ、今日ブレザー着てたっけ」
おかしい。確か浅羽くんはベージュ色をしていたような……?
「悠太どうしたの」
「祐希」
「え」
浅羽くんがもう一人帰ってきた。え、もう一人?見上げると、同じ顔が2つ。え、なんで、どういうこと!?クローン!?分身!?幽体離脱!?
慌てて2人の顔を交互に見る。何度も何度も。ていうか果たしてこれは2人なのか。私の頭がおかしくなって1人の浅羽くんが2人に見えてるだけなんじゃ…
「俺、兄の悠太です」
ブレザーを着て前髪がセンター分けの浅羽くんが自己紹介をしてくれた。
「兄…」
「俺たち、双子なんです」
ベージュのカーディガンを着た浅羽くんがそう言った。
「えっ、まじですか」
「「まじです」」
2人は顔を見合わせてこのやり取り久々にやったーと言っている。
ほんとに似てる。顔、髪質、体型、声。こんなにそっくりな双子初めて見た!しかも両方とも綺麗な顔立ちしてるし。一卵性ってすごい。
「…あ、だからあの子『浅羽悠太くんかっこよくて好き』って言ってたんだ」
「ん?」
私のひとりごとに浅羽(兄)くんが首を傾げた。
「いやね、浅羽悠太くんがどーのこーの噂されてるの聞いたことあってさ、いや浅羽くんの名前祐希ですけど。好きなら名前間違えんなよ!てか名前間違えてるのになーにが好きだよ!って内心バカにしてたんだけど…」
「バカは名字さんだったんだ」
「そうみたいです」
浅羽(弟)くん、ちょっとひどくないですか。
「自分でいうのもあれだけど、俺と悠太のことは結構知られてると思ってたんだけど…」
「ごめんなさい…世間知らずで。だからみんな下の名前で呼んでたのかー。仲良くないのにずいぶん馴れ馴れしいと思ってたんだよね」
「…彼女、はっきりしてるね」
「聞いてて清々しいでしょ」
「祐希、ねちねちしてるの嫌いだもんね」
謎が解けてそっかー、そうだったのかー、と一人で納得していると、どこかに行っていた橘くんが帰ってきた。
「たっだいまー!お、これは千鶴さま待ち!?ではみなさん屋上へ参りましょう!」
「悠太、今日は名字さんも一緒だから。このさっぱり加減、悠太気に入ると思うよ」
ようやく私たちは各自お弁当を持って屋上へ向かった。
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