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走る。走る。走る。
手を引かれるがままに、度重なる怒号を超えて、死を感じさせる熱を超えて。
震える膝に気づかないふりをして、口の中に広がる鉄をごまかすように飲み込んで。
エレベーターでの出来事も、自分を指すらしい【賢者】のことも、新しい魔法使いを召喚したことも、今だけは忘れて。
身を隠すため、魔法舎の塔を目指してただ走る。


__ああ。どうして【お前】は…。いや、【きみ】はよくトラブルに巻き込まれるねえ。


「…えっ」

突如頭の中に響き渡った声に驚いて、思わず後ろを振り返る。

「賢者様…、どうかしましたか」
「い、いいえ。気のせいだったみたいです」
「あともう少しで塔に着きますから。そこまで頑張りましょう」

気のせいだったのだろうか。
それにしても、耳元でささやかれたように今も耳にあの声が残っている。
ただ、あの場に残った彼らのことを思うと、ここでもたついているわけにはいかなかった。


やっとの思いで塔を上り、そしてパチパチと嫌な音がする方へ目を向ける。
そこで炎を見た。
魔法使いへの悪意を見た。
魔法使いへの恐怖を見た。
隣に佇む魔法使いの悲しみを見た。

「恐怖にかられたものは、自分や大切なものを守るために、何でもしてしまうものなのじゃ」

諦観したホワイトの言葉に悔しさでその場に立っていられない。

「…酷い。こんなこと、いくら怖いからって、酷すぎるよ」
「まあまあ、いくら人間が愚かでも失望しないでやってほしい。あんな彼らの中にも善人はいるんだから」

今度こそ、耳元で聞こえた声を辿って振り返る。
そこには、昂っていた感情が抜けていくような、柔らかな笑みを浮かべた美男子が立っていた。

「ええと確か…君の国ではヒーローは遅れてくるんだろう?僕はヒーローではないけれど、今の状況を打破する手伝いくらいはできると思うよ」
「…賢者の、魔法使い?」
「…あなたが?」
「むむっ」
「むむむっ」
「はいはい。スノウ君もホワイト君もお口はチャックねー。今は上を目指さないと。もうすぐそこまで人間が追いかけてきているんだからー」

当然のように手を握られて、一瞬茫然としていた彼らをおいていくように彼は走り出した。

「あ、あの」

思わず、走りながら声をかける。

「あなたの名前は」

走りながら、乱れた髪を器用に耳にかけた彼は、悪戯が成功したようにお茶目に微笑むと、秘密を恋人に共有するような仕草で囁いた。

「僕は愛支。よろしく、晶」

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