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If 銃の魔人の華麗なる日々(フィガロルート)

誰かの願いを叶えることはフィガロにとって簡単なことだった。
助けてください、私達をどうか、助けてください。
フィガロには特に断る理由がなかったから、求められる度に願いを叶えてあげた。
フィガロは彼らにとって「神様」だったからだ。
子どもとして振舞うことなど知らなかったし、振舞っていいものだとも思わなかった。
だから求められるまま「神様」になってあげた。あげていた。
…あの悪魔と出会うまでは。

「なんだ。子供ではないか。なら腕を差し出せ。私を助ける権利を与えてやる」

醜い見た目の何かはとても偉そうで、それでいて今にも死んでしまいそうだった。
自力で立ち上がることすらできない何かは至る所から血が出ていた。

__気持ち悪いなあ。

フィガロはそう思ったが、誰かの願いを叶えるのは久々だったから、気まぐれで醜いそれを抱き上げて口もとに腕を持っていった。

「え……」
「なんだ。飲まないのか」
「の…飲む」

飲みやすいように持っていってやったのに、それは心底驚いたと言いたげに黙り込んだ。はっきりしないやつだ。自分から言い出したくせに。
それでもしばらくするとフィガロの腕に遠慮がちにかみついたのでフィガロはそのまま、それを抱きかかえて近くに生えていた木にもたれかかった。

「…子供。子供。おまえ、こんなところにいたら死ぬんじゃないのか」
「死ぬわけないだろう。…私は魔法使いだ」

そう、自分は魔法使い。
みんなと一緒に死ねなかった死にぞこない。
だから、今感じている眠気はフィガロを永遠の眠りには誘わない。

「……」

腕の中にいるそれもフィガロを殺すことなどできない。

「おい!子供。起きろ!おい、おい!!」
「…うるさい」

醜かったそれは、美しい少女の体を奪ったらしかった。

「子供。私はお前を気に入ったぞ。名を言ってみろ、おまえを私の子分にしてやる!」
「……」
「…?なんで黙っとるのだ。早く言え。呼ぶとき困る」
「…フィガロ。それで?お前はなんて呼べばいい」
「フフフ!よくぞ聞いてくれた。…我が名は銃の悪魔!怯えていいぞ!!!」

ジュウとやらが何なのか知らなかったので特に何も思わなかった。
銃の悪魔はショックを受けたようでしばらくめそめそと泣いていたが、フィガロが移動するとなんだかんだついてきて、フィガロは気が散るなと思った。

銃の悪魔はフィガロがスノウとホワイトに拾われてからもフィガロについてきた。
オズという弟弟子ができると子分が増えたと喜んでいた。
世界征服をすることにしたらフィガロやオズよりも熱心に殺戮を繰り返し、凶悪化した。
それでもフィガロの前では子犬のようにふるまって、構ってもらおうとして、片時も離れようとはしなかった。

「スノウがホワイトを殺した?」

銃の悪魔は今までと変わらずフィガロの隣にいた。
フィガロの心は新月の海のように暗い。
今までいろいろなものを信じかけて、勝手に裏切られたように感じて、信じることを止めて、それでもたった一つだけ残っていた輝く星が、なくなってしまったような気分だった。

「それがどうしたのだ?」

フィガロに甘えるようにもたれかかる銃の悪魔は片腕を銃に変身させ、「ひとり生き残ってしまったならスノウがかわいそうだ。私達で殺してやるか?」とさらに言葉を続けた。

わかるはずもないか。悪魔とかいうわけのわからない者に期待した俺がバカだったな。

フィガロはそう自嘲的な笑みを浮かべ、そういえばとずっと訊く機会がなかったから訊けずにいたことを訊いた。

「ねえ。今更だけど、おまえは何で俺についてくるわけ。まさか本気で俺のことを子分だなんて思ってるの?」
「……」

銃の悪魔は不思議そうな顔をしていたが、すぐにいつも通り自信に満ち溢れた笑みを浮かべると、フィガロの腕に抱き着いた。

「それはもちろん、おまえの夢が叶うのを私が見たいからだ」
「……」
「私は誰かに恨まれることはあっても、殺されることはあっても。誰かに愛してもらえることなんてないだろうから。だから、フィガロ。私は私の代わりにおまえが愛を手に入れるところを見てみたいのだ」
「…おれが愛を手に入れられるって、本気で思っているの?」
「もちろんだ。…なあ、フィガロ。おまえが愛ではなく別の名を与えたものが実は愛だったりするんだぞ。愛は意外と身近にあって、実はとんでもなくドロドロしていて独りよがりな醜いものだったりするんだ」
「へえ、随分な言い方だな」
「…少なくとも私の知る愛は醜かった」
「……」
「…だが、おまえの考える愛はたいそう美しそうだ。だからこそ、私も見てみたくなったのだ」
「……そう」

あまりにも銃の悪魔が自信たっぷりに言うので、フィガロは自分にも本当に愛が手に入れられるかもしれないなんて楽観的なことを考えることができた。
そして本当にフィガロにとっては運命的な出会いがあって、傍にいた銃の悪魔も子供のようにはしゃいで。
それなのに、自分は彼にとってお客さんだったことに気が付いて。気づくのは遅いくせに結論を出すことだけは早くて。

ある月の出る夜にムーンロードを見に行った。
わざわざ銃の悪魔を起こさないように細心の注意を払って向かった。
海の真上に満月が浮かび、一筋の月影ができている。
まるで、どこか、天上の世界に繋がっているような、輝く青銀の道だった。
フィガロの足はまっすぐに月影へと向かって行った。
海は冷たかった。
それでも構わず進んだ。
すぐに波が膝より上にきて、進みづらくなったけれど、それでも歩き続けた。
もうすぐ胸までつかる。
そんな時にドシンと衝撃がフィガロを襲った。

「おい。なぜ起こさなかった。私は泳げないのだ」
「……なんで来たの」
「おまえが向かおうとしている場所だ。きっと美しいのだろう?私も連れていけ」
「…嘘。おまえはそこまで馬鹿じゃないよね。ねえ、意味わかってる?」

フィガロは振り向こうとしたが、銃の悪魔に頭を抱きかかえられるようにして邪魔をされて、結局振り向くことができなかった。

「……おまえ、」
「おまえは寂しがり屋だからな。私が傍にいてやらんと泣き出すに決まってる」
「……それはおまえのことでしょう」
「…それに」
「それに?」
「おまえは私の願いを叶えてくれたのだ。ならば私もおまえの夢を叶える手伝いをすべきだろう。うまく手伝いができずとも、傍にいることはできよう」

しっかり銃の悪魔を抱え直すと、銃の悪魔は静かに微笑んでいた。
こんな笑い方もできるのかとぼんやり思っていると、銃の悪魔はフィガロの首に腕を回した。

「…俺は、ひとりぼっちで死ぬんだと思ってた。誰にも看取られずに」
「私は逆だ。大勢から見下ろされて、死んで肉塊になってもなお踏みつけられるんだと思ってた」
「…でもちがった。甘えん坊が俺を離してくれなかった」
「私もちがった!寂しがり屋が泣いていたから!」

無邪気に笑う銃の悪魔を見ていたら、いつの間にか、あれほど魅力的だったムーンロードの続きなんてどうでもよくなっていた。

「…帰って風呂に入ろうか」
「私、泡風呂がいい!!」
「はいはい、じゃあしっかりしがみついてね」

フィガロは慣れ親しんだ呪文を唱えた。
あーあ。俺、一人ぼっちになれないんだ。
そう思ったら、冷え切っていた指先は、少しだけ温かくなっていた。