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俺の言葉に目を丸くさせるクロスビーとエルネット。
聞き間違いをしたかのように、苦笑を浮かべながら話を続けた。


「誰かしら血縁者が…」
「俺を殺せって言ってんだよ!血縁者なんか知らない、親戚が居るのかも知らない!!お前らなら出来るだろ!?俺1人殺す事ぐらい…!!」


溜め込んだ物が全部溢れ出てしまいそうで怖かった。
これ以上言ったらだめだと頭の中では分かっていても口は止まらない。
頭の中がぐちゃぐちゃで自分でも感情がコントロール出来なかった。


「俺にはもう何も残ってない、唯一の親族の親父は死んで、村は壊滅状態で…、"魔法"が使えた所為で"化け物"って呼ばれて…!っ、こんな奴を誰が必要とするんだよ!ただ1人だけ俺を"化け物"だって言わなかったノエルも…死んだんだ…、っ、もう…、生きて居たくない…!!」


肉親も、帰る場所も、自分を変えてくれた大切な人も、全部失くした。亡くした。
何も残ってないんだ。掌から零れ落ちる砂みたいに全部落ちて、空っぽになって。
生きる意味すら、見失った。


ベッドのシーツを強く握り締める。握り締めた拳は小さく震え、溜め込んだ感情を全部言い切ってしまった所為か少し呼吸が乱れて居た。

俺の言葉に二人は呆然としていた。

閉じた瞳をゆっくりと開けようとした瞬間に抱き寄せられる。クロスビーが俺を抱きしめたんだ。優しく背中に回された腕が俺の背中を摩った。


「"生きて居たくない"なんて、言うな。お前は全部失くした訳じゃないだろ…?」
「なに、言って…」
「お前はここに立ってる。生きてるんだ。…それじゃあ理由にならないか?」


言ってる意味が分からなかった。
クロスビーはポケットから小さな鍵を取り出して、俺の手元の枷の鍵穴にそれを差し込むと鍵が外れ、足枷も同じように外すと丁寧に地面に置き、また俺を抱きしめた。


「お前は"化け物"なんかじゃない、"魔法"が使えるのは適応者だから、選ばれたからだ。ただそれがあの村では通用していなかっただけ…"魔法"はちゃんと存在する」


ノエルと同じ事をクロスビーは俺に向かって言った。


「それに、"誰が必要とするのか"と聞いたな…?俺がお前を必要とする、騎士団に入れば良い。責任をとってお前の面倒を見る」


背中を撫でていた大きな手のひらは次第に頭へと動き、頭を撫でる。


「帰る場所"を失くしたなら、ここを新しい"帰る場所"にすれば良い。忘れるのが嫌なら度々イーリウムに赴いて弔ってやれ。守れないのが悔しいなら、力をつければ良いんだ」



言葉の一つ一つが痛いぐらいに優しくて。



「だから…今は泣け。村から今までずっと泣いた姿を見ていない。 親も大切な人も亡くしたのに、我慢するなよ。親父さんの分も大切な人の分も、生きるんだ」
「………馬鹿、じゃねぇの…」


零れないようにと、必死に耐えてた涙が溢れ出した。
クロスビーの腕の中で声を出さずに泣いた。
溜め込んだ感情も全部流れ出した。

そして俺はクロスビーの言う通り、騎士団に入る事にした。



「そう決めてから、俺は騎士団に入る為の勉強をする為に学習院に入って6年掛かる内容を2年で終わらせて入隊、2年間一般騎士団員として働いて、聖騎士になった…」



話が終わった途端、深い沈黙が空間を包む。
自身の発言が場違いだったように思えてしまったリノは目を泳がせてから深く俯く。




「ーーーごめん、頭冷やして来る」



沈黙を打ち破ったのはクレスで、小声で小さくそう呟くと足早に部屋を出て行った。名前を呼ぶ声すらも耳に届いていないようだった。


「クレス…」
「真琴」


アレルが真琴の名前を呼ぶ。


「クレスを追い掛けて…、寝惚け眼でも、君を"ノエル"って呼んだのにはきっと意味があると思うんだ」


真琴は小さく頷くと、クレスを追って部屋を飛び出した。



「あたし、変な事言っちゃったかなー…どうしよ…」


リノが項垂れてそう呟く。罪悪感を感じてしまっているらしく、俯きながら溜息を吐き出した。


「大丈夫、だと思うけど…今の話で、少し気になる事があるな…」
「気になる事?」
「うん、少し…、ね」






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