5


目を覚ました時に一番最初に視界に入ったのは、煉瓦で出来ているように見える天井。辺りは薄暗く、まだ視界がはっきりとしていなかった。 次第に視界も鮮明になり、あれからの記憶も蘇ってくる。

イーリウムの人が死んでて、親父が死んでて、ノエルが死んで…それから…。


「………!!」


確かになった記憶に俺は起き上がった。
見慣れない空間だった。

目の前には鉄格子。
手足に付いた枷。

それと誰かが近づいて来る足音。



「あ、おはよう!目ぇ覚めた?」
「その声…」
「クロスビー!起きたわよー!」


記憶の一番最後に残っている声。
やけに明るい、でもどこか違和感を感じさせるような感じの。
そいつは鉄格子の鍵を開けて、中に入ってきた。追ってもう一人男も入ってくる。

一番最初に入ってきた、その何とも言えない声の人物。
そいつは空色の髪を一つに結い上げている女みたいな奴、もう1人の男は白髪交じりの筋肉質な身体つきの40代ぐらい。


「よぉ、どうだ、元気か?」


見た目に似合ったハスキーボイスで俺にそう聞く。元気かって聞かれた所で何を答えろって言うんだろうか。見りゃ分かる事だろうと思って黙って視線を反らせると痺れを切らしたのか、男じゃない方…女みたいな奴が俺の視線を無理矢理合わせる。


「ちょっと!クロスビーが話してるの、質問には答えなきゃだめでしょ?」
「…んなの、見れば分かる事だろ!それに、お前に一々指図される覚えはねぇよ!ばばぁ!」


俺の最後の一言でそいつの表情は変わる。踏んでは行けない地雷を踏んでしまったような気がして、反らした視線を恐る恐る向けると、黒いオーラが漂っているように見えた。


「ばばぁ?あたしが?随分と口の悪い子ねぇ、勘違いしてるみたいだから教えてあげるわ。あたし、こう見えて立派な男よ」
「………は?」



一瞬何を言われているのか分からなくなって、三度見ぐらいした。どこからどうみても女で…でも確かに声は作ってるような感じの声で…。色々と考えていれば、不意に視界が転がり、頭に枕が当たる衝撃。


「あたし男だけど、心はちゃんと女の子よ?口の悪い子にはちゃーんとお仕置きしてあげなきゃだめかしら…?」
「っ、何、すんだよ!」
「エルネット、悪戯し過ぎるなよ。彼には聞かなきゃならん事があるからな…」



エルネット、と呼ばれた(一応)男は頬を膨らませながら俺の上から退くと俺は再度身体を起こす。


「俺はクロスビー。騎士団、って言えば分かるか?そこの現筆頭を務めているんだ。お前の名前は?」
「……、クレス」


優しい口調で名前を名乗ると自らの右腕に付いた腕章を指差す。今思えば、この二人が着ているのは騎士団の隊服だと気付く。実物を見たことがあるのは2、3回ぐらいの事だったから記憶が薄いのも無理はない。そう考えるとここは騎士団の城の地下牢だろうか。



「で、そこの明らかに見た目が女な奴で一応男なのがエルネット。俺の部下だ」


クロスビーはエルネットを指差す。それに合わせて視線を向けるとエルネットは小さく手を降って見せた。


「俺たちはイーリウムの近くに用事があってね…立ち寄ろうとしたらこの状態だった。あの村で生きていたのは君1人、手荒な真似をしてすまないとは思ってるが、話を聞かせて欲しい」


口調は丁寧だが、俺でもなんとなく理解出来た。
生きていたのが俺だけだった。
つまり俺が村の奴らを殺した犯人だと疑ってる訳だ。
口には出さなくても疑いをかけられている事ぐらい嫌でも分かる。
手足に着いた枷を見れば、嫌でも。



「……、俺は森の中に食いモンを取りに行ってた…戻って来たら…気持ち悪いぐらい静かで…親父が死んでるの見つけて、村の奴らも死んでて…」



記憶を辿りながらぽつりぽつりと呟く。クロスビーもエルネットも真剣に聞いていた。
俺の言葉が止まると、小さく溜息を吐き出した。


「そうか…、大変な目に遭ったな…」
「………」



"大変な目"って何だよ。
俺をわかったような口振りで話すクロスビーに僅かながらも苛立ちを感じ、俺は深く俯いた。
暫くの間続いた沈黙を、確認の為の質問で自ら沈黙を打ち破った。


「……なぁ、やっぱり全員、死んだのか?」
「ーーーあぁ、全員、村全てを調べ上げた結果、お前以外は誰も居ない」
「………」


騎士団の奴らが言うんだ、嘘の筈がない。
自分の見落としがあるかもしれないと言う僅かな期待も虚しく消えた。

俺には何も、残ってない。


「じゃあとりあえず、お前の親戚を…」
「……せよ」
「?」


「俺を殺せよ、今直ぐ」




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