3


「そしてその日から、俺とノエルは一緒にいるようになった」


クレスは淡々と過去を語る。
真琴達はそれをただ真剣に聞き居る。アレルが持ってきた飲み物や軽食を手に取る事も忘れて。


「俺の苗字…、俺は本当の苗字を知らない。今の苗字は、ノエルがくれた」


ずっと下の名前で呼ばれていたのもあるし、興味がそこまで無かったのもある。俺の名前が名前=苗字の順になってるのは知っていたけど、親父も何も言わないし、必要もないと思ってた。この順でなってる人は大体家が平民か平民以外の人が多い。稀に貴族にも居るけど。

そんな感じで自分の苗字に興味が無かった俺は、突然ノエルにその話を振られた。


「ねぇ、貴方には苗字は無いの?」
「……知らない、興味も無いから…」
「じゃあ、私の苗字をあげるわ!そうすれば貴方の名前、もっと素敵になると思うの!」


ノエルは、本当に突拍子の無い事を言い出す奴だった。でも、ノエルが俺の隣にいる事で安心したし、笑う事も多くなったと思う。

だけどやっぱり俺はイーリウムでは"化け物"扱いされ続けるしかなかった。
そんな風に扱われてる俺と一緒にいるノエルも、勿論異物を見るような目で見られるようになっていた。


「お前、俺と居て嫌になんねえの?」
「何で?」
「だって…、俺が"化け物"扱いされてるのは分かってんだろ。俺と一緒に居る所為でお前まで変な目で…」
「良いじゃない、言わせておけば」


あっさりとノエルは言った。


「だって、"魔法"は選ばれた人、適合者しか使えないんだもの。私はいくら頑張っても使えない。貴方は凄い人だわ、みんなが"お伽噺"だと思ってた事を現実に出来るんだから」


人とズレてると言うか、考え方が違うと言うか…ノエルは今までにないタイプの人だった。だけどその一言で何か救われたような、そんな気がした。
ノエルと出会ってから自分の中にあった全てが変わったように思えた。今の自分があるのは、半ばノエルが居たからかもしれない。


「ーーーーで、クレスはノエルに惚れてたってワケか!」


今までの話を聞いて、真剣だった面持ちを崩したリノがにやりと笑みを浮かべながらそう問いかけた。

真琴がリノを止めるように視線を向け、名前を呼ぼうとするとクレスの言葉がそれを遮る。


「そうだよ」
「……えっ?」


冗談のつもりで言ったらしいリノは、予想外の返答に目を丸くさせた。


「俺は多分、ノエルが好き"だった"んだと思う」


その言葉に、僅かに何かを感じた真琴は小さく首を傾げる。


「でも、叶わねえから…」
「叶わない…?」


クレスは視線を下げると、感情を押し殺したような声で小さく呟く。


「もう居ないんだよ、何処にも」


ノエルと出会って5年くらい経った頃。俺は12歳になっていた。
そしてその年に、ノエルは居なくなったんだ。





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