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初めて"魔法"を使ったあの日。
あの日から俺はイーリウムでは冷たい目で見られるようになっていた。
"化け物"とか"異端者"とか、そんな感じの言葉をイーリウムを歩くだけで言われて、毎日毎日罵声のように浴びせられた。

元々イーリウムの奴らとはそこまでの関わりを持っていなかった俺は常に一人でいるようになった。
一番最初に俺の"魔法"を見た親父は、あれ以降命令する事は無くなり、家に帰って来ても口も聞かず、恐怖を抱いているような目で見ていた。


完全な孤立。
誰一人味方なんていない。


そんな状態になって半年ぐらいした頃。
俺はいつもの様に近場の森の小さな広場に足を運んで、木の影で本を読んでいた。まぁ、買える訳じゃないから拾って来た奴だけど。
急に陰ったと思って本に向けていた視線を前に向けると、こんな場所には似合わないような小綺麗なワンピースを着た女の人。歳は見た目だと同じぐらい。


「何してるの?」
「………」


一瞬向けた視線を直ぐに本に戻すと、それが不服だったらしく頬を膨らませると俺から本を取り上げた。


「何…?それ、返せよ…」
「私の質問、答えてくれる?」
「見れば分かるだろ、本読んでたんだ」
「ふーん…」


返してくれるそぶりを見せないから、俺は手からそれを引っ手繰るように取り返し、また本を読み進めた。意外とあっさり取り返せたのには驚いたけど。


「………」


そいつは暫く黙り込んだ後、俺の隣に普通に座った。
何事かと思って焦りを覚える。
だって村ん中じゃ散々邪見にされてる俺の隣に座るんだ、そりゃ焦る。
至った結論は"俺のことを知らない"。


「何だよ…お前、俺に何の用事が…」
「特に無い!」
「じゃあ早くどっか行けよ、お前まで"異端者"扱いされるぞ」
「何で?」


あぁ、やっぱり知らないのか。
"異端者"と呼ばれた俺の事。
新しく村に来たんだろうと個人的に解釈をして、どうにでもなればいいと思っていた俺は半年前に"使った"時みたいに、近くにあった折れた大木を風で持ち上げて落とす。そいつはその様子を呆然と見つめていた。


「……こう言う事。俺は"化け物"だ、お前はここにいるべきじゃ…」
「凄い!貴方、こんな事が出来るのね!」


予想外だった。
まさかこんな反応されるなんて思ってもいなかった。鳩が豆鉄砲食らったような顔をしてたんだろうと今思い出せば笑える。


「は…?何言ってんだよ、お前…」
「貴方は"魔法"が使えるのね!羨ましいわ」


俺の"魔法"を見て驚かない事。
"魔法"を知っていた事。

"魔法"の概念が無い世界しか知らない俺は驚く事しか出来なかった。

その少女は笑いながら自分の名を名乗る。

「私はノエル。つい最近家が無くなっちゃってお母様とここに来たのよ」
「貴族、とかそんな奴…?」
「違う、私は普通の平民。"魔法"の事は本で読んだわ。お伽噺だと思ってた」


"魔法"の事を否定しないでくれたのは初めてだった。
全部本で読んだお伽噺みたいなモンだと思ってたから実際自分が使えた時には驚きもしたし怖かった。
当の本人がそう感じたんだ、概念が無い場所じゃ恐れられても仕方ない。そう割り切ってたから尚更かもしれない。


「貴方…名前は何て言うの?」
「……、クレス」


ノエル。そう名乗った少女はまた笑い、立ち上がって手を差し出した。


「クレス、ね。これからよろしく!私、もっと貴方とお話したいわ!」



これが、ノエルとの出会いだった。


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