1


最下層の場所、イーリウム。

行き場を失った人が自然と集まり出来た村。
村と呼ぶには出来上がっていない。集落でしかないような場所。

奴隷商人みたいな性質悪い奴もいたし、病気に侵されたけど病院に行けずにふらふらとしてたら辿り着いた者、家が没落して捨てられた子供。言ってしまえば"ゴミ捨て場"。騎士団の目も中々届かない、国の中にあるとすらもされていない。


そんなイーリウムで俺は"生まれた"。父親は酒豪で横暴な屑みたいな男。母親は俺を産んですぐに死んだ。病気だったんだか、親父に殺されたんだかは知らない。顔も覚えていない。


小さい頃からそんな親父と暮らしてきた所為で、気付けば自分の身を守る術を知っていた。7歳になるかならないかぐらいの頃の話。暴力なんて普通で日常茶飯事。酒が無くなれば買って来い、盗って来いと叫ぶ。


「てめぇの所為でロクに飲めもしねぇ、身体でも何でも売って金でも稼いで来いよ、クソ餓鬼」


そんな台詞は嫌と言うほど聞きなれた。
言う事を素直に聞くのも嫌で、家とも呼べないボロ屋を出てその辺から適当に水を汲んで家の前に置いていた。
飲み過ぎで味覚がおかしくなったんだと思う、水でもばれてなかった。


でもある日、イーリウムに居た親父と仲の良かった住民の一人が俺の嘘を告げた。基本家に居ないで近場の森の中で大半を過ごしてた俺は、告げ口をされた事なんて知らずに家に戻る。一歩、足を踏み入れた瞬間に小さい俺の身体は宙に浮かび堅い土の床に強く身体を打ちつけた。息が一瞬止まり、噎せ返る。痛みから来る涙ぼやけた視界に捉えたのは倒れた瓶。そこから零れる液体。朝方に汲んで来た水の入った瓶。ばれたんだ、と悟った。


「ーーーー…!!」
「よくもまぁ騙してくれたなァ…」


咄嗟に起き上がって手当たり次第に物を投げた。身の危険を嫌と言うほど感じた。でも大人の歩幅にまだ子供だった俺の歩幅が例え走ったとしても敵う筈も無かった。

俺の顔の倍以上手が俺の身体を掴み、首を捕らえるとそのまま上に持ち上げられた。


「っ、ぁ……!」



もがいても敵う筈も無くて、次第に力が入らなくなっていくのが分かった。ぼやける視界でじっと睨み、震えた手を親父の前まで伸ばした。


「あ?何だよ、てめぇに何が出来んだよ」



少し前に拾った本で読んだ事があった。
この世界には"マナ"と呼ばれる元素で満ち溢れてる事。その"マナ"に信号を与えると"魔法"が使えるのだと言う事。


信じてた訳じゃない。
でも死ぬのなら、僅かな望みを。



「ーーーー吹き飛べ!」



掠れた声で叫んだ。
叫んだ瞬間に地面には緑色の光を発する複雑な何かーー今なら分かる"魔法陣"が浮かび上がった。"それ"によって出来た突風が親父の身体を外まで吹き飛ばす。
手が離れて漸くまともに吸えた空気は冷たく感じて、また噎せた。

俺は両手を開いて交互に視線を向けた。
"魔法"を使ったんだと分かった。



吹き飛ばされた親父はそれから少しして戻ってきたが、先ほどまでの威勢はない。どこか異物を見るような目で俺を見て言った。



「気持ち悪ィクソ餓鬼だな…」



"魔法"の概念が無いイーリウムでは、俺のした事は異端で異質で不気味だった。
俺の事はすぐにイーリウム中に広まった。






[ 79/195 ]

[*prev] [next#]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -