7



誰かが自分を呼んだ。
それはずっと前に聞いた声で、
もう二度と聞けない声で。

あの日あの場所に居なければ
残酷な運命から逃れられたかもしれないのに。

それよりも、何よりも、
あの場所に自分がいなかった事が
何よりも悔しくて。

"誰か"が笑って、手を降った。
"ばいばい"って笑った。

いくら伸ばしても、手は届かない。
走っても、距離は縮まらない。

そっちに行ったらだめだって、
言いたいのに声が出ない。


強い光が眩しくてーーーーー。




「……っ!」


クレスははっと目が覚める。懐かしいような夢を見た。だがやけに夢見が悪い。
額に乗せてあったタオルは、起き上がったと同時に地面に落ちた。
ぼんやりとした視界が鮮明になり、辺りを見回す。どうやら自分の部屋ならしい。

どれだけ記憶を辿っても、あの少年を抱えて村に戻ってからの記憶が無い。


(あれから…、俺はどうしてたんだ…?)


とりあえず部屋を出ようと思ったが、ベッドに顔を伏せて眠っている真琴がある事に気付く。少し離れたソファの上にはリノも眠っていた。

起こさないようにそっとベッドから抜け出すと、風邪を引かないようにとタオルケットを二枚取り出し二人に掛けた。


「あれ、目覚めた?」


部屋に備え付けられたシャワールームからアレルが出てきた。タオルで濡れた髪を拭き、シャツを羽織った。


「さっきメーヌから帰って来て…、ほんとに悲惨だったね」
「………、あぁ」


今までにない悲惨さに、お互いに目を伏せた。出来るものなら思い出したくなんてないのだが、向き合わずにはいられない。自分の役職を疎ましく思った。



「ーーーって、体調不良なのに無理してメーヌに行って、1人で交戦したんだって?」
「いや、その…」
「それであっちで倒れて、大変だったんだってよ?マーティスにちゃんとお礼言って…、あと、真琴は今日付きっきりで看病してた」
「真琴が……?」


あっちで倒れた辺りから記憶が無い為、何とも言いようがないが、真琴が近くに居たのは僅かに記憶があった。何か、真琴に向けて言ったような気がする。何を言ったのかも分からない。


「きっと慣れてないから…疲れたんだろうね、真琴、僕が帰ってきた時には寝てた。リノも僕より先に戻って来てたけど寝てたし…」


普段看病なんてした事のない真琴は真琴なりに考えて行動していたのだろう。多少たりとも気遣いはしていた。
リノはリノで、あっちに赴いて仕事をしていた。余りにも残酷な物は見せないような仕事内容ではあったが、少なからず見てしまうもので精神的にも疲れがあった。

寝てしまうのも無理はない。


「ーーじゃあ、夕食貰ってくるね、 4人分」
「あ、俺も行く…」
「病人は寝てろ。大丈夫だよ、そんなすごいのは貰って来ないし、軽食ぐらいのやつ」


アレルの後を追おうとするクレスの肩を掴み、ベッドの上に押し倒すと悪戯じみた笑みを浮かべてアレルは部屋を出て行った。


「……ん…」



真琴が目を覚まし、目を擦る。
ぼやけた視界が鮮明になり、目の前に座るクレスの姿に僅かに驚きを見せた。



「クレス…!熱、大丈夫…なの?」
「お陰様で。ありがとな」


言われてみるとあの時と比べれば体の怠さや寒気は大分無くなっていた。ゆっくり手を伸ばすと、優しく笑みを浮かべながら真琴の頭を撫でる。

真琴も安心したように、小さく笑った。

ただ、気がかりな事が一つだけ残る。
あの時、自分に向けて言った、あの言葉。




「ーーーーーノエル」



小さな、本当に小さな声で呟いた。



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